近縁な2種、キスゲ属の夜咲き種キスゲと昼咲き種ハマカンゾウは、花の寿命がたったの半日であり、キスゲは、スズメガ媒花であり、黄色い花冠、匂いあり、長い花筒という特徴である。ハマカンゾウは、チョウやハナバチ媒花であり、赤色を帯びた花冠、匂いなしという特徴がある。本研究は、送粉昆虫に適応した一連の花形質群の進化機構を解明することを目的とし、[1]夜咲き種の花形質群(開花時間・花色・花香)が、どのような遺伝的構造によって生じたか?[2]進化の初期状態を野外で実験的に再現し、送粉昆虫の選好性と花形質への自然選択、について明らかにする。 平成20年度は花色の物質レベルでの解析を進め、分光光度計を使用して雑種F2世代におけるアントシアニン色素量の分離を調べ、主要遺伝子の関与が示唆された。これらの遺伝子を特定するために、キスゲ・ハマカンゾウ・F2の花弁組織からRNAを抽出し、アントシアニ色素に関する遺伝子について、半定量的RT-PCRで発現を調べた。花香については、花香サンプルを収集し、GCMS(ガスクロマトグラフ質量分析計)を用いて、親種における物質の組成の違いを調べたところ、リナロールがキスゲで特異的な成分であることが明らかになった。夜咲き種の花色・花香が、主要な遺伝子の変化によって生じた可能性が示唆された。今後、進化の初期状態を野外で実験的に再現し、花色・花香の遺伝子について解析し、送粉昆虫の選好性と花形質への自然選択を解明する。
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