テラヘルツ電磁波発生に有用な非線形光学結晶の開発に向けて、N-benzyl 2-methyl 4-nitroaniline(BNA)結晶に着目して研究を行った。昨年度の研究成果から、より大型のBNA結晶がTHz波発生に適している事が明らかになったので、結晶の大型化を目指した。その結果、これまでよりも大きな結晶が得られる結晶成長条件を発見し、効率的な大型結晶成長技術を実現した。THz波の常温検出器による検出が可能なレベルまでTHz波強度の増大が実現しており、今後、議論を深めて論文投稿の予定である。 さらにテラヘルツ波発生に用いられる有機非線形光学材料は大きな非線形性と共に、超高速光学応答を示す事が知られており、物質の非線形性の起源を解明するためには超高速分光や非線形光学分光による光物性学的な研究が不可欠である。昨年度、有用なπ共役電子系非線形光学材料であるβ-カロテンの共役鎖長が異なる一連の誘導体を有機化学合成法により調製し、非線形光学応答のポリエン型π電子共役鎖長依存性を調べた。分光方法としては過渡回折縮退四光波混合法と第三次高調波発生分光法を用いた。その結果、基底状態にカップルする分子振動の位相緩和が熱浴からの摂動によって主に引き起こされる事を明らかにし、各分子振動モードの位相緩和寿命を決定した。また、これらの物質の非線形性が、最低一光子禁制状態への二光子共鳴ではなく、最低一光子許容励起状態への三光子共鳴によって引き起こされる事を明らかにした。本年度は国際学会での発表と様々な研究者との意見交換をもとに論文を作成し、それぞれの結果をPhysical Review Bに掲載する事ができた。
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