研究概要 |
私はこれまでの研究において、ミツバチの働き蜂の育児から採餌蜂への分業において、エクダイステロイド(変態ホルモン)情報伝達にかかわる核内受容体HR38が、脳のキノコ体(高次中枢)で、女王蜂、育児蜂よりも採餌蜂で強く発現することを発見し、働き蜂の分業を変態ホルモンが調節する可能性を提示した。HR38は蚊の脂肪体において卵巣発達の阻害に関与することが報告されている。今回、ミツバチHR38の脂肪体における機能(HR38は採餌蜂の不妊性に関与するのではないか?)を明らかにするため、まず以下のような実験をおこなった。 (1)カースト・分業間における脂肪体のHR38遺伝子発現量比較 脳だけでなく、脂肪体においてもHR38の発現がカースト・分業間で変動するかを検討するため、女王蜂、育児蜂、採餌蜂を用いて定量的RT-PCRを行った。脂肪体においては、採餌蜂選択的な傾向はみられたものの、個体間ごとの発現量のばらつきが大きく、有為差は得られなかった。蚊においては、HR38の脂肪体での機能はmRNAレベルではなく、タンパク質レベルで制御を受けていることが知られている。よって、タンパク質レベルの発現量比較を行うため、次に2)の抗体作製を行った。 (2)HR38,USP,EcRに対する抗体作製 エクダイステロイド情報伝達経路のモード変換に関わる最も重要な3つの因子HR38,Ultraspiracle(USP)、Ecdysone receptor(EcR)についてHis-tagつき組み換えタンパク質を作製・精製した。現在、これらのタンパク質を抗原として、抗体を作製中である。今後、この抗体を利用して、3者の発現量変動をタンパク質レベルで明らかにできるだけでなく、免疫沈降法などにより、3者間での相互作用の違い、ひいては活性化されている情報伝達経路の違いを、育児蜂と採餌蜂とで比較することが可能となる。
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