チトクロムc酸化酵素(CcO)が分子状酸素を水に還元し、かつ、プロトンをミトコンドリア内膜の内側から外側へ能動輸送する際の個々のアミノ酸残基の役割を、分光学的手法を用いて動的構造に基づいて解明する研究では、CcOの取り扱いに十分な注意と経験が必要である。そのような実験の準備として、まず、比較的多く調製が可能なウシ心筋由来の可溶化CcOと、ミトコンドリア内膜の反転小胞であり、呼吸鎖電子伝達系酵乗が膜中に存在しているKeilin-Hartree Particlesを用いて、時間分解可視共鳴ラマンスペクトルの測定を行っだ。その結果、膜中に存在するCO結合型CcOの光乖離後のCO再結合速度は、20s^<-1>である事がわかったが、この値は可溶化CcOのそれと比べて、有意な差が見られなかった。この事はCOの再結合速度に直接関係する溶存CO濃度(CcOが感じる濃度)が、リン脂質二重膜中と水溶液中とで等しい事を意味する。 ミトコンドリア中のCcOでは、酸素還元反応における反応中間体の寿命が、膜から取り出した可溶化CcOのそれに比べて長い事が報告されているが、その理由は不明である。この活性調節機構は生理的に重要であると考えられる。上述の結果をふまえ、CcOが本来存在するミトコンドリアを無傷のままに調製し、時間分解可視共鳴ラマンスペクトル測定を様々な条件下で行い、活性調節機構を解明する事を次の課題とした。まず、ミトコンドリアの調製方法を改良した。その結果、膜構造が維持され、分光学的に純度の高い無傷のミトコンドリアを得られるようになった。
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