大腸は病気の発信源であり、腸内環境を改善することは疾病予防に効果的である。腸内環境は、食品由来成分、腸内細菌、腸内細菌の放出する代謝産物の三者によって構成される。本研究は、腸内細菌の放出する代謝産物のひとつであるポリアミン(PA)に注目して実験を行った。腸内PA濃度を上昇させるためには、腸内細菌のPA吸収、放出系の解析が重要である。(腸内細菌のPA吸収を抑え、放出を促進すれば腸内PA濃度は上昇する。)そこで、モデル生物である大腸菌を用い、PA吸収系の探索を行った。筆者らのこれまでの研究から、大腸菌が細胞外プトレッシン(Put)を栄養源として生育する際に必須のPut吸収系であるPuuPの性質を解析し、Journal of Bacteriology誌に報告した。また、PA吸収系の実験を行う過程で、大腸菌がPAの一種であるスペルミジン(Spd)とSpd吸収系であるPotABCDに依存して遊走を行うことを発見し、FEMS Microbiology Letters誌に報告した。さらに、この遊走を指標として、大腸菌のこれまで報告のなかったPut吸収系を発見した。この新規Put吸収系は、筆者らの報告したPuuPのホモログであり、これまで機能未知のORFであったYeeFであった。YeeFは大腸菌が0.5%グルコースを添加されたLB培地で生育する場合、生育初期に発現するPut吸収系であり、大腸菌がPutを細胞外シグナルとして利用し、遊走を行う際に必須の因子であることが明らかとなった。また、これまでに報告のある、他の4つのPA吸収系はこの機構には関わらないことが明らかとなった。このことは、大腸菌が様々な環境に応じてPA吸収系を使い分けていることを示しており、腸内PA濃度を上昇させるためには発現制御物質の存在を考慮する必要性があることを強く示唆する結果であった。現在この内容については、Molecular Microbiology誌に投稿することを予定し、論文執筆中である。
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