研究課題
哺乳類細胞を培養することで、エリスロポエチンなどの医薬品や遺伝子治療ベクターが生産されており、臓器・組織の再構築も実現されつつある。現在の細胞培養では、ウシ血清の添加が必須となる場合が多いが、血清を用いることはコスト高に加えて、人畜共通感染症の懸念がある。そのため、医薬品や遺伝子ベクターの生産系では、生産効率が劣るものの、無血清培養が望まれている。従来の無血清培養では、どんな細胞にも汎用的であるような添加因子は未だ報告されていない。汎用的な添加因子を見出すことができれば、細胞種ごとに異なる組成で作られてきた無血清培地が統一化され、細胞培養工学の歴史に一線を画す。本研究では、培地添加因子として絹タンパク質セリシンに着目し、無血清培地の構築を目指した。これまで、セリシンが様々な哺乳類細胞に対して増殖促進・細胞死抑制効果を示すことを見出している。セリシンを培地添加因子として実用化することを考慮した場合、細胞に対する作用機構解明が重要となってくる。そこで、セリシンの汎用性が何に起因するかを明らかにするとともに、細胞に対する作用機構の解明を目指した。まず、プロテオーム解析を用いて、増殖促進と細胞死抑制に関連するタンパク質を探索した。結果として、細胞増殖に関連するタンパク質を2つ同定した。セリシン添加でPKC inhibitor Iの発現が減少し、一方でEGFレセプターファミリーであるErb-b2の発現が増加した。これらのタンパク質はEGFレセプターの下流にあるPI3K経路、Src経路、Ras-MAPK経路に関わるという知見から、阻害剤を用いて検討した。結果として、セリシンによる細胞増殖促進機構には、Src、Ras-MAPK経路が関与することが示唆された。一方で、PI3Kは関与しないことも示唆された。これらのシグナル経路の関与は、特性の異なる2株で検討し、普遍性を見出すことが出来た。
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薬学雑誌総説 128
ページ: 51
Animal Cell Technology, Basic&AppliedAspects (印刷中)
http://www.eng.fukui-u.ac.jp/info/19_yanagihara.html