研究課題
近年の動物細胞培養においては、ウシ血清を培地に添加することが必須となる場合が多いが、血清を用いることはコスト高に加えて、狂牛病(BSE)やウイルス感染の懸念がある。そのため、血清の代替となる添加因子を用いた無血清培養が望まれている。従来の無血清培養では、どんな細胞にも汎用的であるような添加因子は未だ報告されていない。本研究では血清を代替する目的で絹タンパク質セリシンに着目し、すでにセリシンが様々な哺乳類細胞に対して増殖促進効果・細胞死抑制効果があることを見出している。そこで、セリシンの汎用性が何に起因するかを明らかとするとともに、細胞に対する作用機構の解析を目指した。前年度より、セリシンによる細胞増殖促進機構はある程度解明できた。そこで、今年度はセリシンの細胞死抑制機構を中心に解析することとした。DNAチップを用いた解析から、セリシンの細胞死抑制機構にはJNK経路の関与が想定された。そこで、JNK経路に関わるASK1遺伝子とmyd118遺伝子の発現量を検討したところ、myd118遺伝子は発現誘導されており、この発現誘導は一過性であった。一方でASK1遺伝子の発現量、タンパク質の発現量は変化がなかった。さらに、JNKの活性化に対するセリシンの効果を検討したところ、セリシンを添加することでJNKの活性化は抑制された。また、セリシン添加によってmyd118遺伝子が発現誘導されたことより、転写因子NFk-Bの関与が推測された。そこで、NFk-Bによって転写されるIk-Bについて検討を行ったところ、Ik-B遺伝子の発現が誘導され、NFk-Bが深く関与していることが示唆された。本研究によって、セリシンの作用機構をある程度解明することができた。セリシンの作用機構の解明は、動物細胞培養にセリシンを効果的に用いること、あるいは広く実用化するための足がかりになると期待できる。
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