研究概要 |
本研究では、海産の小型甲殻類アミ(Mysid crustacea;Americamysis bahia)を対象として、卵巣成熟に密接な関係を示す卵黄タンパク質前駆体(ビテロゲユン,Vtg)の一次構造を明らかにすること、また卵黄形成機構に対する環境化学物質の影響評価を行うことを目的とした。本年度は、卵黄タンパク質のアミノ酸配列自体を解析した。甲殻類のVtgはsubtilisin認識配列が存在し、エンドプロテアーゼによって複数の卵黄タンパク質(ビテリン,Vn)へ切断され、卵母細胞に蓄積される。そこで、個体発生に必要な栄養源として卵黄タンパク質を蓄積している未受精卵を試料とし、卵黄タンパク質のアミノ酸配列決定を試みた。未受精卵抽出試料をSDS-PAGEに供したところ、推定分子量89kDaの位置に主たるバンド、58kDaの位置に比較的明瞭なバンドを形成した。これらのN末端アミノ酸配列を決定したところ、それぞれ10残基のアミノ酸配列が得られ、ホモロジー検索から、LLTPs(脂質伝達タンパク質)スーパーファミリーに属することが明らかとなり、アミVtg一次構造の一部を明らかにした。また、抗アミ卵関連タンパク質抗体を作製し、幼若ホルモン様物質fenoxycarbを曝露したアミの雌特異的タンパク質の発現をウェスタンブロッティングにより調べたところ、これらの個体では推定分子量89kDaのタンパク質発現が減少しており、性成熟の遅延が惹起されることを明らかにした。すなわち、このタンパク質はアミVtgの一部であることから、アミVtg産生は幼若ホルモンによる制御を受けるものと推察された。以上のことから、不明な点が多い甲殻類の内分泌調節機構の重要な基礎的知見が得られ、化学物質の生態影響評価に使用可能である抗体作製に成功した。
|