研究概要 |
ラフトはスフィンゴ脂質やコレステロールを主成分とする細胞膜上のマイクロドメインで、シグナル伝達の場として機能する。これまでに、B細胞株のラフト画分を用いたプロテオーム解析により、新規分子Raftlinを同定した。Raftlin KOマウスは、メンデルの法則に従って誕生して外見上顕著な異常は認められなかったものの、脾臓はWTマウスに比べ小さく、T細胞依存的抗体産生能が減少していた。しかし、KO B細胞のBCR刺激応答性は正常であり、B細胞で強く発現しているRaftlin2が、機能を相補している可能性を考えた。そこで、Raftlin2の発現の少ないT細胞について解析を行った。Th2喘息モデルでは気道の過敏性に変化は無かったが、Th17多発性硬化症モデルでは、KOマウスで麻痺が軽減し、牌臓や脊髄でのIL17の産生が減少していた。そこで、naive T細胞を用いて分化誘導実験を行ったところ、Th1,Th2,Treg分化に異常は認められなかったものの、Th17分化がKO T細胞で減弱していた。一方、TCR刺激の強度を変えてT細胞を刺激してサイトカインの産生を調べたところ、IL17>IFNgamma>IL4の順に強い刺激を必要とすること、KO T細胞ではIL17の産生が顕著に減弱することが明らかになった。また、TCR刺激による細胞内タンパク質のリン酸化がKO T細胞で減弱していた為、T細胞ラフトの分画を行ったところ、定常状態のラフト中に含まれるLckの量が、KO細胞で減少していた。TCRは定常状態ではラフトの外に存在するが、刺激を受けるとLckの局在するラフトに移行してリン酸化を受け、シグナル伝達が開始すると考えられている。Raftlin KO T細胞では、Lckのラフト中の存在量が減少する為に、下流のシグナルが減弱し、特に強いTCR刺激を必要とするTh17への分化が阻害されたと考えられた。
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