研究概要 |
虚記憶と実際の記憶に遅延時間が与える影響について実験を行った。実験材料には、実際には提示されていない単語(以後、ルアー語)を連想して誤って思い出すように作成された日本語単語のリスト(Kawasaki-Miyaji,Inoue,& Yama,2003)を用いて、ルアー語の虚記憶と、実際に提示されたリスト語の記憶とを比較した。ファジートレース理論(fuzzy trace theory;e.g.,Brainerd & Reyna,1996)では、逐語痕跡(verbatim trace)と要旨痕跡(gist trace)の2種類の記憶痕跡が考えられている。逐語痕跡は実際に提示された刺激の外見の詳細を表し、要旨痕跡はその刺激の意味やテーマを表すと考えられている。実際に提示されたリスト語の記憶は逐語痕跡に残ると考えられるため、遅延時間をおくと再生率が下がることが考えられる。それに対して、実際には提示されていないが連想されることで誤って思い出されるルアー語は、リスト語の要旨を反映すると考えられる。したがって、ルアー語の記憶は要旨痕跡に保存されると考えられ、遅延時間をおいても再生率が低下しないことが考えられる。本研究では、日本人大学生54名を実験参加者とし、実験をおこなった。実験参加者は2グループに分かれて実験に参加した。パソコンの画面に単語15個からなるリストが1単語ずつ提示され、1リストが提示されるたびに2分間の自由再生テストが課された。このリスト提示-再生テストの試行は6回繰り返された。また、1週間後、10分間の自由再生テストが求められた。その結果、リスト語の再生率は遅延時間で低下したが、ルアー語の虚再生率は遅延時間によって増加することが示された。したがって、リスト語の記憶は逐語痕跡に、ルアー語の記憶は要旨痕跡に保存されていることがわかった。
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