有機半導体薄膜を用いた光電子デバイスでは、複数の有機ヘテロ界面における電荷移動がその機能化に重要である。報告者は、有機デバイスに関連した有機ヘテロ接合間の電荷移動と波動関数(φ)の重なりの関係を紫外光電子分光法(UPS)/準安定暦原子電子分光法(MAES)を用いて研究を行った。報告者はこれまでに、導電性高分子ポリ-3-アルキルチオフェン(PAT)の分子配向が薄膜表面で異なり、HOMOのφの膜表面外側への広がりの程度が変化することを明らかにしてきた。すなわち、(i)表面にアルキル基が露出することでHOMOのφの膜表面外側へ広がりが抑制され、一方、(ii)表面に主鎖のポリチオフェンが露出することでHOMOのφが膜表面外側に多く広がる。報告者は本年度の前半において、PAT薄膜の表面分子配向のより大きな変化が、(i)は浸漬法または高速回転のスピンコート法、(ii)は摩擦転写法で制御できることを一部国際学術雑誌において報告した。また、そのように作製した2種類のPAT薄膜上に有機半導体ペンタセン(PEN)を真空蒸着法によって積層し、PENの分子配向と電子状態の関係をUPSおよびMAESを用いて研究した。その結果、PENの分子配向は下地のPAT薄膜のHOMOのφの張り出し具合に依存せず、分子の長軸を基板に対して垂直にして配向し、またエネルギー位置やバンド分散などの電子状態の特徴的な違いも明らかには見られなかった。PAT薄膜表面には、(i)はもとより(ii)においても基板に対して平行になったアルキル基が主鎖と同様に存在する。このため、上地分子と下地分子のφの重なりと電子状態の関係をはっきりと見極めるには、光電子顕微鏡や走査型トンネン顕微鏡などによる空間的な電子状態の観察が重要であると考えられる。また、有機ヘテロ接合界面のφの重なりと電気特性の関係は、現在、産業技術総合研究所との共同で有機薄膜型太陽電池を作製して研究中である。
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