昨年度までの研究から、ATF4 mRNAの分布と比較してATF4タンパク質は神経堤細胞により限局していることが観察された。このことから、ATF4は転写後、または翻訳後に何らかの制御を受けている可能性が考えられた。そこで今年度は、ATF4タンパク質が神経堤細胞に限局されるメカニズムを明らかにすることを目的とした。ATF4タンパク質は不安定で分解されやすいことが過去の報告から調べられており、ユビキチンリガーゼのサブユニットの一部であるβ-TrCPが結合することが契機となりプロテアソームによって分解されることが報告されている。このβ-TrCPの結合部位に変異を導入した発現ベクターを神経管に導入した場合、野生型と比較して高発現することが分かった。また、アセチルトランスフェラーゼのp300がβ-TrCPの結合を競合的に阻害することでATF4タンパク質は安定性が上昇することが培養細胞株を用いた実験で知られている。神経堤細胞と神経管の細胞におけるp300の発現を調べたところ、p300タンパク質は神経堤細胞に特異的に局在していることが分かった。そこで、p300を神経管に遺伝子導入したところ、内在性ATF4タンパク質の発現レベルが上昇することが確認された。また、PKAのリン酸化部位に変異を導入したベクターにおいても野生型に比べ安定性が増していることが分かった。これらの結果から、ATF4タンパク質は神経管の細胞ではβ-TrCPやPKAによってすみやかに分解される一方、神経堤細胞ではp300によって安定化されていると考えられた。なお上記の研究結果については、新潟県新潟市にて2009年に5月に開催された42^<nd> Annual Meeting for the Japanese Society of Developmental Biologistsにおいて英語による口頭発表を行い、現在論文投稿中である。
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