研究課題
国際学術研究
本研究の目的は、西アジアの農耕牧畜経済の開始にともなう集落の急速な拡大化現象と、社会の組織化複雑化の過程について、北シリアのハブール川流域及び北西シリアのエル・ルージュ盆地をフィールドとして、遺跡発掘と環境科学的調査を通じて具体的に解明することにあった。平成8年度は、ハブール川流域にあるテル・ウンム・クセイール遺跡の発掘調査ならびに同流域の環境科学的調査を実施し、草原環境にある同流域のセトゥル・ダウンと集落の進展に取り組んだ。平成9・10年度は、エル・ルージュ盆地内のテル・エル・ケルク遺跡北部テル・アイン・エル・ケルクの中央発掘区と北西発掘区、及び北発掘区を中心に発掘調査を実施し、森林環境下での新石器時代集落の発展の様子と、巨大集落の経営基盤に関する様々な情報を得た。中央発掘区ではエル・ルージュ2c期(紀元前6千年紀半ば)の文化層より、大型貯蔵用倉庫と小型住居群などを検出し、集落構造を推定する研究が進められた。また、石製印章と粘土の封泥などが出土し、所有権の保持を行う封泥システムをもった複雑な経済活動が行われていたことが明きらかになった。北西発掘区からは、エル・ルージュ1期および2a期(紀元前7千年紀末〜6千年紀初頭)の文化層が検出され、住居などの一部が発見されている。未完成のビーズ類や石のドリルが多数出土しており、遺跡内でビーズ生産が行われていたことが確かめられている。エル・ルージュ盆地内の環境科学的調査では、集落の消長に深くかかわる盆地中央の古ルージュ湖の時期的変遷を明らかにする資料が得られた。このほか遺跡の数カ所で試掘を行い、遺跡全体に紀元前7千年紀末〜6千年紀前半の集落が広がっていたことなどが再確認されている。調査は未完であるが、テル・エル・ケルク遺跡の新石器時代集落は、巨大であるばかりでなく複雑な社会経済的組織を有していたことが明らかになりつつある。
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