研究概要 |
今年度調査した遺跡は次の通りである。 <突厥時代>ブグト遺蹟・ホショー=ツァイダム第三遺蹟・ビルゲ可汗遺蹟・キュリ=チョル遺蹟・トニュクク遺蹟。<ウイグル時代>バイバリク遺蹟・シヴェート=オラーン遺蹟・シネウス遺蹟・ホショーティンタル遺蹟・カラバルガスン遺蹟。<モンゴル帝国時代>ツァガーン=バイシン遺蹟・ドイティン=バルガス遺蹟。 これらについては,それぞれの現況・景観の記述,簡単な見取り図の作成,遺物のスケッチなどを行なった。またカラバルガスン遺蹟については昨年度に引き続きヘリコプターによる空撮を行ない,より広範囲の知見を得ることができた。 碑文については主に突厥・ウイグル時代の古代テュルク語・ソグド語・漢文の碑文を精査し,従来の読みを相当に修正することができた。 例えば,ブグト碑文につき,リフシツらが「新しい僧伽藍を建てよ」と解読したところは正しくは「教法の石を立てよ」であった。これまでこのブグト碑文によって突厥第一可汗国に仏教寺院が建てられていたと解釈されてきたが,その根拠は失われた。またリフシツが突厥の始祖「ブミン可汗」に当てたところも,全くの誤りであった。冒頭1行目にも大きな読み直しが必要となり,従来のcynst'n「中国」は消え,全体は「テュルク(突厥)の阿史那の一族の王たちが[この]仏法の石を立てた」となる。 カラバルガスン碑文のルーン面からは初めてaftadan(マニ教の高僧)というキーワードを読み取った。碑額について正確な計測の結果,現存5行の下には1行ではなく4行の脱落があったはずであることが判明した。それゆえ,そこの文章はラドロフの考えたような簡潔な体言止めではなく,ソグド語の碑題と同じような長い文章の形になっていたにちがいない。他方,この碑文の台座は特殊な形に復元されていたが,やはり亀趺の上に立っていたことが判明した。
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