研究概要 |
今年度は,13〜14世紀のモンゴル時代に属する遺蹟・碑文を主な対象とした。 (1)遺蹟については,カラコルム遺蹟・シャーザンホト遺蹟・釈迦院遺蹟・宣威軍城址(ホクシンテール遺蹟)・ハルホルハン城址を主な対象とし,現状確認のための表向調査と,歴史研究にとって重要な意味を持つ景観調査を行なった。その結果としての略測図を研究成果報告書に示した。また突厥・ウイグル時代の遺蹟に関する前2年の調査と同様,モンゴル時代の各遺蹟の瓦・レンガを収集して胎土分析を行ない,3年間の分析データの総合的検討を実施した。 (2)碑文については,元来はモンゴル帝国の首都カラコルムに立石され,16世紀後半に同地に建設されたモンゴル高原最初のチベット仏教寺院エルデニゾーの建築石材として再利用されている諸碑文(モンゴル語・ベルシア語・漢語),元朝時代の軍屯建設を記した宣威軍碑(漢語),辺境諸侯の都城の仏教寺院建設を記す釈迦院碑(モンゴル語・漢語)を主な対象とした。 碑文の多くは,今世紀初頭・半ばに発見・調査されてはいるが,これまで拓影の公刊,移録・内容検討がなされたのはごく一部にとどまっている。特に,カラコルム関係の碑文に対する原碑調査・拓本作成が行なわれたのは約1世紀ぶりであり,我々の調査の意義は大きい。その中には,今世紀初頭以後,行方不明となっていたものや,これまで全く学界に知られていなかった新出碑文も含まれている。これらの碑文は,モンゴル時代のモンゴル高原支配体制を解明する新資料として,歴史学的にきわめて重要である。それらの拓本は日本とモンゴル双方に各1本づつ保存することとなり,日本国内においてもテキスト研究を進捗させる環境を整えることができた。目下それらの資料の整理を急いでいるが,なお,すべての検討を終えるまでには至っていない。成果報告書では,5,発表の碑文を中心とし,原碑調査に基づく再検討結果を示す。新出碑文についても,数年以内に,拓影とあわせて公刊する予定である(研究成果報告書の「はしがき」を参照)。
|