オセアニアにおける植民地統治と島嶼民の歴史経験に関する人類学的研究

1997 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 08041016
• 研究機関: 神戸大学
• 研究代表者: 須藤 健一 神戸大学, 国際文化学部, 教授 (10110082)
• 研究分担者: 大谷 裕文 西南学院大学, 文学部, 教授 (20112279) ; 吉岡 政徳 神戸大学, 国際文化学部, 教授 (40128583) ; 山本 真鳥 法政大学, 経済学部, 教授 (20174815) ; 橋本 和也 京都文教大学, 人間学部, 教授 (90237933) ; 船曳 建夫 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 教授 (90165457)
• キーワード: 行動様式の世代ギャップ / マオリ伝統文化の創造 / キリスト教の功罪 / カストム(伝統的慣習) / 立憲君主制と王権 / 森林伐採と環境保護 / 植民地時代の歴史体験 / 反植民地運動

研究概要

本年度は、オセアニア6島嶼国、ニュージーランドとメキシコで住民の植民地時代の歴史経験及び、伝統文化の維持と今日的展開などについてフィールドワークを行った。
1.ミクロネシア調査では、日本時代と米国時代の教育、社会福祉、土地制度の差異が今日老人と若者との世代間に、思考、労働観、行動様式に深刻なギャップを生じさせていることを明らかにした。
2.ニュージーランド調査では、植民地時代以降、土地、言語、文化などへの権利をを奪われたマオリの人々が、伝統文化・芸能を再創造し、アイデンティティを確認している実態を明らかにできた。
3.フィジ-調査では、19世紀に受容されたキリスト教について、貴重な「教会月報」の発見とその分析により、植民地時代の教会活動について新しい事実を得ることができた。
4.西サモアの調査では、反植民地運動の実態とその今日的意味について明らかにできた。
5.ヴァヌアツ調査では、カストム(伝統的慣習)の概念が植民地化に抗して存続し、現在でも村落と都市生活者のあいだに価値観のズレとして如実に反映していることを解明できた。
6.トンガ王国の調査では、植民地時代の憲法と立憲君主制に対する、最近の民主化運動の高揚にともなう、国民の国王への忠誠心と社会的不平等に関する疑念との軋轢について明らかにした。
7.パプアニューギニアの調査では、植民地時代からの森林伐採が社会と環境に及ぼした影響、そして近年の政府による「持続可能な林業政策」についての人々の評価についての情報を収集した。

研究成果

• [文献書誌] 大谷 裕文: "トンガにおける国家とキリスト教" 塩田光喜編『太平洋のキリスト教』アジア経済研究所. (印刷中). (1998)
• [文献書誌] 須藤 健一: "人と政治を動かす土地の力-ヤップの土地制度の変化" 杉島敬志編『土地所有の政治誌』風響社. (印刷中). (1998)
• [文献書誌] 須藤 健一: "家族的ネットワークに依存するMIRAB国家" 青木保他編『岩波講座文化人類学・個からする社会展望』. 4. 131-157 (1997)
• [文献書誌] 斉藤 尚文: "環境と開発を読む:パプアニューギニアの森林をめぐって" 青木保他編『岩波講座文化人類学・環境の人類誌』. 2. 221-245 (1997)
• [文献書誌] 橋本 和也: "キリスト教の文化変容" 青木保他編『岩波講座文化人類学・宗教の現代』. 11. 109-145 (1997)
• [文献書誌] 山本 真鳥: "移民社会とホームランド-サモア移民の経験" 青木保他編『岩波講座文化人類学・移動の民族誌』. 7. 128-157 (1997)
• [文献書誌] 吉岡 政徳(著): "メラネシアの位階階悌社会" 風響社, 522 (1998)
• [文献書誌] 山本 真鳥(編著): "植民地主義と文化-人類学的パースペクティヴ" 新曜社, 347 (1998)
• [文献書誌] 須藤 健一(編著): "Contemporary Migration in Oceania:Diaspora and Network" 地域研究企画交流センター、国立民族学博物館, 198 (1997)
• [文献書誌] 船曳 建夫(編著): "岩波講座文化人類学講座第4巻・個からする社会展望" 岩波書店, 322 (1997)
• [文献書誌] 橋本 和也(著): "キリスト教と植民地経験-フィジ-における多元的世界観-" 人文書院, 290 (1996)
• [文献書誌] 山本 真鳥(共著): "儀礼としての経済-サモア社会の贈与・権力・セクシュアリティ" 弘文堂, 352 (1996)