研究課題
本年度は調査の初年度であり、研究員はこれまでの研究実績を背景に、本研究計画の方針に基づいた調査の方向性を模索した。研究成果もこれから本格的に公表していく事になるが、さしあたり今年度の調査の概要と新たに得た知見を簡単に記しておく。カイロの観光業の実態を調査した大塚は、大規模な旅行会社が進出している現状において、半ば伝統的な経営方針を保っている中規模観光業者が直面している諸問題を見出した。堀内はモロッコ南部の調査で伝統的楽器製作技術と組織の変容、およびベルベル地域におけるアラビア語とイスラームの初等教育に関する情報を得た。モロッコのス-フィー教団の拠点をいくつか訪問した坂井は、従来研究していた西アフリカのそれとは異なった北アフリカ的イスラームのあり方を知り、比較のための有益な視点を得た。カイロのファトワ-(権威あるイスラーム法の判断)委員会を調査した小杉は、同委員会の実態とそこを訪れるムスリム民衆の抱く生活上の問題を記録した。鷹木はチュニジアの都市と農村で、伝統工芸を含む物質文化に関わる民俗知識のあり方を調査した。上エジプトの農村に住み込んだ奥野は、国家レベルでの大きな社会・文化変動の中で、村の親族組織、通過儀礼などの慣習が、一部変容しつつも多くの点で以前からの形態を保持している事を知った。赤堀はエジプト西部のベドウィンの歌謡、家畜飼育のあり方、天幕の構造などが、近年の社会変容のもとで再編成され、今日風の「伝統」となっていることを見出した。織田はカイロでアラビア語の研修をしながら、家族関係が階級によってかなり異なることを確認した。今年度末には東京で打ち合わせを行い、調査情報の共有をはかり、同時に次年度以降の研究方針を確認する。なお、研究代表者の大塚は、現在『アジア読本・アラブ』(河出書房新社より刊行予定)の編集を行なっており、本研究計画の成果の一部として、そこに本研究斑の多くのメンバーが小論文を提出する事になっている。
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