研究課題
本研究では、労働力移動の中でも特に丘陵、山地などフロンティア向けの移動が大量に存在し、森林資源などの環境後退につながっているとの仮説に立って、従来等閑視されてきた非都市地域(フロンティア、山地)向け労働力移動に注目し、その実態の確認、把握に努めている。梅原は、ミンダナオ島南部のコロナダル谷においてキリスト教徒フィリピン人による計画入植村と、そこで土地を追われ周辺山地に避難した先住民の集落を訪ね、古老から入植後の経過、とりわけ先住民が土地を失って山地に後退する過程について話を聞いた。これら情報の裏をとることが今後の課題である。同じミンダナオ島では、早瀬がサランガニ州でイスラム教徒の家系図から19世紀以降の移住の流れを確定するための情報収集に努め、バウティスタはブキッドノン州の自然公園、キタンラッド山麓を訪れ、周辺住民の森林との共生の実態を調査した。ダラゲットの移動漁民の研究をしてきた関は、ミンダナオ島北岸のイニタオ町にある彼らの派生あるいは分村集落の機能について調査した。移動漁民の故郷、セブ島のダラゲット町では、バレスカスが環境劣化の激しい中での農民の生存をかけた野菜栽培の取り組みを観察した。永野は、ネグロス島カスティリヤ-ナ町の砂糖きび農園で、労働力移動の実態調査を行い、永井はパナイ島西部のアンティーケ州で労働力移動の地元の価値観への影響について調査した。ルソン島では、滝川がカラバルソン工業団地建設に伴う農地転用の環境や労働力移動への影響について現地調査と資料収集を行い、葉山がシエラマドレ山脈西麓のガバルドン町で山地稲作村の土地利用変化を調べ、それにより住民の生業変化の復元を試みた。また、田中は北カマリネス州サンビセンテ町のココナツ農村で労働力移動の調査を行った。