研究課題
本研究は、スリランカ、インドネシア、タイ、そして昨年度から台湾を含めた地域の農村開発計画を比較検討し、その「開発現象」の実態を解明してきた。今年度は最終年度にあたり、昨年に引き続き各国で進行中の政府系プロジェクトの概要を把握し、それらの資料をもとに取りまとめの報告書を作成した。主な調査対象は、スリランカにおける貧困低減のための「ジャナサヴィヤ(人民の力)」計画、戦後の公衆衛生に係わる言説、タイにおいては開発僧、インドネシアでは海岸部の泥炭湿地水田化計画、および戦後の開発独裁体制下の村落史、また台湾に関しては戦後開発計画とアイデンティティの変容であった。これらを通して明確になってきたことは、それぞれの国の開発現象を理解するためには、開発言説とそれと表裏一体となった制度の複合体の複雑系とその力の作用を把握する必要があるという点である。しかし、この複合体を一度に丸ごと理解することは不可能である。そのため、特定の「出来事」(例えば、特定の開発計画)から入って、それに関わるさまざまなアクターや制度、モノの関係性をミクロな権力のネットワークとして理解し、その民族誌を作りあげなければならないのである。例えば、その複合体の作用に関しては、開発実践の場でどのような特定の開発戦略が選択され、選択の範囲から排除されるものは何か、さらにはこれらの複合体がどのように知識人や農民などを開発に参加する主体として作りあげてゆくのか、またどのような文脈でそれがうまくゆかないのか、といった点を把握することなのである。そしてこのミクロなレベルでの把握をとおして、複合体の複雑系と、その作用を理解する手がかりを獲得できるのである。今後も、これらのミクロなレベルでの把握を蓄積させ、それと並行してよりマクロな政治経済的枠組みとの関係を検討しつつ、より説得的な開発現象の比較の枠組みを構築したいと考えている。
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