研究課題
本年度は最終成果とりまとめのための研究会、補充調査、および現地への成果還元にかかわる活動を行った。補充調査については、江西省宜春地区、浙江省温州地区、陜西省戸県、河北省大城県において、私的経営者および現地関係者への聞き取りを行い、これまでの収集資料を補充した。一方、成果還元では、中国で開催された全国規模のシンポジウムに参加し、これまでの研究成果を報告するとともに、関係研究者、行政担当者、団体担当者、私的経営者、ジャーナリストとの幅広い研究討論を行った。以上の研究活動を通じて、本年度に明らかとなった主要な知見はつぎの二点である。第一に、アジア危機の予期せざる結果として、中国の産業化過程における私的経営者の重要性が高まったことである。従来、国際貿易関連の産業は実質的に公営形態の企業がほぼ独占してきた。このことは国営企業などがアジア危機の影響を大きくうける結果を招き、一方で失業者雇用などにおいて、影響が比較的軽微であった私営企業に頼らざるを得ない状況を生じていた。第二に、これからの社会変動の方向性を考える上での中間組織の重要性である。各地の地方財政はもはや私営企業からの税収に頼らざるを得なくなっていた。その一方で、私的経営者からの行政に対する要求も強まっており、私営企業家協会や商会という中間組織の重要性が認められつつあった。一部地域の中間組織では、地方行政の対応のあり方などに対して、いわば異議申し立てといえる議決すら行われていた。このことは、中国の今後の社会変動の方向性や地域にねざしたオータナティブな発展を考える土で、極めて重要な動きといわざるをえない。