研究課題
1 中国の国際化を制度的に保証するものとしての世界貿易機関(WTO)への加盟に関しては、依然として高い推進意欲が看取される。ただ、その過程裡では、本加盟交渉の正面に当たる米国に対する特殊な“嫌米情緒"が国民各層間に拡散しつつある点が憂慮される。2 現代中国の基層社会も大きな変貌を遂げつつある。とりわけ、農村での基層選挙、村民委員会活動はここ4年間で大きく発展しており、基層選挙の実施過程、内容面でもかなり実質化している。市場経済化の伸展により、農民の利害関心、行動が多元化し、基層政権の在り方が農民の利害に直接関わるようになってきたことが背景である。3 こうした市場化および国際化を実質的に体現する存在の一つが、中国国内各地域間を移動する農村出身労働者であり、本調査で行った大連市出稼ぎ労働者のフェイスシート、出身農村社会経済情況アンケートの結果、深口市とほぼ類似した出稼ぎ労働力の流入がみられ、出稼ぎ労働者の賃金が相対的に高いこと、また、実家仕送りが出身家庭の家計において重要な役割を果たしていることが明らかとなった。4 中間層を対象にした調査研究、特に、調査データを踏まえた実証的な研究の困難性に関しては、いわゆる中間層研究が階級・階層帰属意識を主対象とするところから発生する政治的困難(「敏感問題」)に加えて、「中間層」概念自体の曖味性が、背景要因として特質される。これらのミクロ的知見は、国際化、市場化の現代中国政治社会体系へのインパクトの大いさを、直接示唆するものであり、同時に、そのインパクトが不可逆的変化をもたらしつつあるところから、中国の国際化・市場化プログラム自体が、最早「後戻り不能な」レベルに達しているものと結論される。
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