研究課題/領域番号 |
08041076
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研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
笠原 清志 立教大学, 社会学部, 教授 (80185743)
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研究分担者 |
BOGDAN Cicho ワルシャワ大学, 社会学研究所, 教授
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キーワード | 経営権の確立 / 市場経済の導入 / 連帯運動 / 民主化 / 企業内教育 / 知識ノウ・ハウの秘匿 / 雇用不安 / 人的ネットワーク |
研究概要 |
(1) 得られた知見 これら調査を通じて、得られた知見は下記の通りである。 東欧諸国の民主化と、その後の東西ドイツの統一、そしてソ連邦の解体といったプロセスは、戦後長く続いた米ソの冷戦構造を一気に崩壊させてしまった。そうした時に西側諸国は、ソ連、東欧諸国における民主化や市場経済について楽観的な見通しに立ったため、幾つかの重要な事実を見落としていた。 第一に、市場経済導入のプロセスがかなり長期的な問題であり、その内容も各国で異なったものであるべきことを十分に理解していなかった。市場経済に関するもろもろの法律は国会で成立するが、市場経済というものは言うまでもなく、その経済体制下で働く経営者や労働者の行動様式と価値観が、これに対応したものでなければうまく機能しない。ところが、このような行動様式や価値観は一朝一夕に形成され得るものではない。したがって市場経済の導入とは、各国が自分にふさわしいモデルを選択し、これを長期的かつ困難なプロセスを経て実施していくものになるはずである。 第二には、市場経済導入を民主的手続きに基づいて行う困難さを理解していなかった。国営企業の民営化や経営権の確立は、労働者の職場での既得権をかなり奪うだけでなく、失業者の大量発生を余儀なくさせる。民主化によって労使関係を設立させ、経営権を確立させいくプロセスは、企業の所有関係と利害関係を明確化し、調整しなければ、一歩も先に進まない。 そのうえ民営化された企業は、効率を高めるために余剰人員を解雇し始めた。この措置は、短期的にはその企業の効率を非常に高めたが、長期的には大量の失業者を生み出し、社会不安を増大させていく。このことが理解され始めると、労働者も労組も一部の企業や産業を除いて民営化そのものに消極的になり国営企業の形態維持に固執する傾向も出てきた。 第三に、ポーランドの場合、民営化が労組運動を基礎とした「連帯」によって成し遂げられたことから、市場経済の下での経営権と労使関係の確立がより困難になったという事情がある。 (2)得られた知見 企業内教育システムについては、現在、分析中である。問題点としては、ハンガリー・ポーランドにおいて企業内教育システムが体系化されておらず、それが、人事考課や昇進システムと十分に結合されていないという面がある。 また、急速な市場経済の導入と雇用の不安定を前に一部の階層に『知識やノウ・ハウの秘匿』現象が確認できた。個人が仕事上、習得した知識や能力は自分自身の財産であり、他人には教えたくないとする意識は、組織内の評価システムが集団より個人中心である場合、また、長期的であるよりも短期的である場合により強く意識される。そして、雇用が不安定な場合には、他人がもっていない知識や情報(人的ネットワーク)は自らの雇用を守る有力な武器となる。したがって、知識や情報が組織内で共有化され、それが人から人へと継承されていくメカニズムが必要である。
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