研究課題
タンザニアでは、キリマンジャロ、イリンガ、モロゴロの各州における農村調査とダルエスサラーム市の市場調査を行った。キリマンジャロ州では、日本のODAをきっかけに高収量品種を使う灌漑稲作が数千ヘクタールに及ぶ規模で広がっている。ここの上層農家は、ペザントというよりはむしろファーマ-と規定されるべき価値観と行動様式を持つに至っている。イリンガでも、商人経験を持つ農民のトマト導入以降一種の「トマト熱」が湧き起こり、これが農民層の分化と商品経済的行動を推し進めている。ところが、主要出荷先であるダルエスサラームの公営市場では、特定の仲買人に出荷が限定されており、血縁・地縁に基づく固定的な関係を認めることができる。ジンバブエでは、小規模灌漑農業の聞き取り調査と黒人中規模農民に関する実態調査を行った。ジンバブエでは、白人体制への反発が時に、97年12月の政府声明のような土地再配分政策として現れるが、その実現はなかなか困難である。その中で、黒人の「篤農家」が中規模農場主として生成しつつあり、ここに、黒人農民内の亀裂を秘めつつも、アフリカ的資本主義の端緒をみることができる。上向展開できない圧倒的多数の小農民が集住するコミュナル・ランドでも、小規模畑地灌漑による商品生産へと展開している事例が存在する。暫定的に、商人や公務員などの農村ブルジョアジーが、農村の発展にかなり大きな役割を果たしているといえる。ジンバブエ小規模灌漑農業の場合には、旧来の慣行とほぼ無縁の開拓地に選ばれた若手農民が集まったことによって、彼ら自身が農村ブルジョアジーへと上向する可能性をつかみつつある。しかしながら、富者への呪いや出荷と仲卸の固定的関係など伝統的社会関係もまた強固であり、アフリカ農村社会はゆらぎの中にある。
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