研究概要 |
本研究は,ヴィエトナム・フエ・グエン朝王宮の復原及び修復・保存方法に必要な学術的資料の収集を目的とし,フエ遺跡保存センターと共同で復原考察を行い修理保存の方法論の確立を目指すものである. 復原考察は構造・形式,様式的分類の他,建築の本質に関わる建築理念,設計方法,生産組織と施工技術に着目し,それらを解明・比較考察することによって初めて得られる宮殿建築の特質を明らかにすることを目的とした. 修復・保存の方法論の確立には,現地の遺跡管理者-研究者-職人が連携した総合的なプログラムの確立が必須の課題であり,そのような観点に立脚した修復保存事業に資するように計画された. 平成8年度は,王宮の配置図作成のための測量を行い,配置寸法計画の分析を進めた.基準格子を王宮の伝統的な配置計画方法を勘案しつつ設定し,その整合性を検証した結果,1丈あたり4240mmを遺構尺度とした配置寸法計画を推定した. 一方,単体の宮殿建築である肇祖廟・興祖廟の実測調査を行い,柱径と柱間寸法の比例関係や主要な住間相互の距離の逓減方法についての考察を進め,柱径に基づく単位長を前提とした平面計画方法について言及した. 平成9年度は,歴代皇帝陵の悉皆調査と王宮内の宮殿建築の実測を中心に,その他,装飾床タイルの残存状況を写真撮影によって記録し,それらの分類を進めた.また,修理工事現場で散見される建築部材の接合部(継手・仕口)の写真撮影,木匠道具の分類を進めた.その他,大南-統志などの史料の電子情報化を進め,各々の宮殿の変遷を史料から読みとり図表として整理した. 平成10年度は,皇帝陵の正殿の実測調査を行い,実測値の傾向を分析した.陵内の正殿の遺構尺どは,若干のばらつきがあるものの,1尺につき,380mm〜390mm程度の範囲に納まっている.その他,肇祖廟のスケール1/10の模型制作を行い,伝統的な施工手順に基づく復原考察を行った.
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