研究課題/領域番号 |
08041143
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
河野 昭一 京都大学, 大学院理学研究科, 教授 (30019244)
|
研究分担者 |
UTECH F.H. 米国カーネギー自然史博物館植物部門, 主任研究員
北村 系子 森林総合研究所, 生物機能開発部生態遺伝研究室・農林水産技官, 研究員
村上 哲明 京都大学, 大学院・理学研究科, 助教授 (60192770)
林 一彦 大阪学院大学, 経済学部, 助教授
高須 英樹 和歌山大学, 教育学部, 助教授 (90108001)
大原 雅 東京大学, 教養学部, 助教授 (90194274)
|
キーワード | アロザイム分析 / アメリカブナ / エンレイソウ属 / カタクリ属 / 第3紀冷温帯要素 / ブナ属 / matK遺伝子 / rbcL遺伝子 |
研究概要 |
平成8年度の調査・採集の最重点事項であったアメリカブナに関しては、米国ニューイングランド地方、ペンシルバニア州、カナダ・ケベック州北部の北限帯、オンタリオ州においてランダム・サンプリング並びにトランセクトを設定した系統的サンプリングを行って、4000点余の分析用サンプルを得てアロザイム分析が行われた。アメリカブナは、東部分布域の内、メリ-ランド州エッジウオタ-の海岸平野に残存する集団はわずか数個体の親木から再生したとされる約150年程度の樹齢のブナ、ユリノキ、ナラ属などの高木からなる極相林を形成するが、メタポピュレイション全体としては予想に反して極めて遺伝的多様性に富んだ集団の内部構造をもつことが明らかになった。また、分布域北端に近いカナダ・ケベック州のモン・センチレールのアメリカブナ集団は、ルート・サッカーを形成し、一部クローン形成によって集団を維持している極めて特異的な集団であることが判明した。予想どうり母植物より放射状に同一のmultilocus遺伝子型が分布する遺伝構造をもち、分布域の北部の氷蝕地帯における特異的集団分化を示唆する興味深い事実が得られている。また、ケベック州北部の北限帯付近のアメリカブナ・サトウカエデ・カバノキよりなる混交林集団においても、モン・センチレールのアメリカブナ集団と同様にユニークなクローン構造の存在が明らかにされつつある。 併せて、分子系統学的解析(とくにrbcL,matK遺伝子)の為に採集したユリ科エンレイソウ属、ユリ属、カタクリ属、Uvularia属を主体とするサンプルに関しては、平成8年度内にエンレイソウ属9種、ユリ属35種、カタクリ属10種のmatK遺伝子の塩基配列が決定され、予備的な系統解析が行われた。現在、Uvularia属に関する分析が進められている。カタクリ属10種に関する分子系統学的解析の結果、ユーラシア大陸の4種は予想されたとおりきわめて近縁であり、さらに北米東部の1種E.americanumは、他の北米西部の種とは異なるクレードに属し、むしろユーラシア産の4種とより高い類縁関係を示すという事実は、極めて注目に値する。 これまでの調査、分析研究の結果、第三紀起源の冷温帯性の単子葉植物群の内、代表的なユリ科のカタクリ属、エンレイソウ属、ユリ属、並びに双子葉植物群の主要な高木群のブナ属のmatK遺伝子の塩基配列決定に関しては、研究期間内に相当の部分は完了し、公表できる予定である。また、単子葉植物のマイヅルソウ属、ツバメオモト属、原始的双子葉植物モクレン属など、とくに北東アジア-北米大陸との類縁関係の深い種群に関しても得られたサンプルについて目下集中的に解析を進めているので、平成9年度内にその成果の一部の学術誌への公表は行う予定である。なを、酵素タンパク多型、cpDNAのrbcL,matK遺伝子の塩基配列の解析に供した証拠標本(voucher specimen)の保存は、京都大学植物標本室(KYO)とカ-ネギ-自然史博物館標本室(CAN)の双方で行われている。 樹木のメタポピュレイションの遺伝構造の解析に関しては、アメリカブナ、ブナ、イヌブナ(後者の2種は日本産)を対象に綿密な比較解析を、10数地点の地域集団を対象に進めており、平成9年度内にその分析を完了し、公表すべく現在得られたデータの解析を同時に進めている。 野外調査、分析材料の採集は米国側のカウンターパートの研究者と綿密に連携しながら進めており、日米両国の研究者による最も稔りある共同研究とすべく努力している。米国側研究者を日本へ招聘し、一部現地調査を共同で実施するなどし、併せてワークショップを開催することによって、現在進行中のプロジェクトに関する相互認識を深めつつ研究を進めている。
|