研究概要 |
今年度はカメルーン北部のカラ・マルエ地域において、パタスモンキーの調査に集中した。治安上の理由のため1994年以来、調査研究が中断されていたものである。かっての調査対象2群に対し、餌付け、人付けを再度試み、最初の2週間で一応の成果を見た。その条件下で、以下の調査研究を行った。 群れの社会動態と性選択の研究:交尾期における単雄群の群外雄による乗っ取りのプロセスとそれに伴う雄間の競争、交尾戦略についてこれまで調べてきた。今回はとくに1.上位雄による下位雄の交尾の妨害と下位雄の交尾戦略、2.雌の交尾相手選択、を中心に観察、資料の収集を行った。その結果1.同時発情雌の数の増大に依存して下位雄の交尾が増大し、上位雄による交尾妨害も増加する。下位雄のうち若雄は、通常ほとんど交尾をしないが、雌からの勧誘がある場合は、反応する。2.雌は積極的に雄を誘う。アルファー雄には拒否されることが多く、その場合は下位雄ほか群外雄、隣接群雄にも接近、交尾を試みる。これらの結果は、霊長類の単雄群社会から複雑群社会への進化のプロセスを探る鍵となると思われる(大沢・Hanson・Hayes)。 採食生態学的調査:今回の調査は雨期にあたる。調査対象群のKK群は,主要食物であるAcaciaseyalの樹脂,Boscia senegalensisの果実,Salvadora persicaの果実,Celtis integrifoliaの果実,Acacia sieberianaの樹脂,Commelina forskolaeiのつぼみ,Securinega virosaの果実,Casia spの花などを含めて,16種の植物を採食するのが観察された.現地調査終了後,フランス国立自然史博物館を訪問し,顕花植物研究室のVillier博士に,非食物を含め37種の植物標本の同定を依頼した.この結果は、これまでに得られた乾期の資料と合わせることにより、サバンナへ進出した霊長類であるパタスモンキーの採食生態の特性を示す資料となろう(中川)。
|