研究課題
本研究は、アフリカ大陸の熱帯雨林の山地部と低地部(海岸林、内陸林)に同所的に共存しているゴリラとチンパンジーの食性、植生利用、集団編成、種間関係などを調査し、両種が互いの、また他の森林動物との採食競合をいかに解決して共存してきたかを解明することを目的として、平成8年度から継続して研究を実施してきた。本年度は調査の最終年度にあたるので、コンゴ民主共和国の中央科学研究所からBasabose A.Kanyunyi氏を招へいしてこれまでに収集した資料の分析をするとともに、ガボン共和国のプテイ・ロアンゴ保護区でゴリラとチンパンジーの生態に関する資料を収集して分析を行った。その結果、・山地林のカフジ・ビエガ国立公園ではゴリラとチンパンジーが季節によって異なる採食戦略や営巣樹選択を示すことが明らかになった。この山地林は低地林とは逆に、乾季になると果実の種数や量が増加する。この時期ゴリラは1日の遊動距離を伸ばして多くの果樹を訪問するのに対し、チンパンジーは特定の果樹に固執して狭い範囲を繰り返し利用する。また、チンパンジーはゴリラの食べる果樹には営巣しない傾向があり、これは営巣集団が小さいほど顕著であることが判明した。これらの結果はエネルギー価の高い果実をめぐって競合が生じないように、季節によって両種がニッチを分化させていることを強く示唆している。プテイ・ロアンゴでは内陸部で果実の種数が減少する乾季に、海岸林でいくつかの果実種が大量に実り、これがチンパンジーの遊動に大きな影響を与えていることが示唆された。現在なお資料を分析中であるが、ゴリラやゾウなどとの食物や利用域の重複を検討しながら、類人猿の共存関係について考察していくつもりである。これまでに得られた結果は冊子体報告書にまとめたが、類人猿の共生と共進化について最初の実りある成果が得られたこと、今後とも調査の継続が望まれることを付記しておきたい。
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