研究課題/領域番号 |
08041175
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研究種目 |
国際学術研究
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 学術調査 |
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
本田 武司 大阪大学, 微生物病研究所, 教授 (60029808)
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研究分担者 |
永山 憲市 大阪大学, 微生物病研究所, 助手 (80263309)
飯田 哲也 大阪大学, 微生物病研究所, 助手 (90221746)
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研究期間 (年度) |
1996
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キーワード | 腸管感染症 / コレラ / コレラ菌 / 下痢 / 分子遺伝学 / 疫学 |
研究概要 |
研究の背景 腸管感染症が日本国内外を問わず大きな社会問題となっていることは、平成8年に国内で発生した大腸菌O157集団食中毒事件からも明らかである。国外に目を向けると、発展途上国ではコレラや赤痢等の腸管感染症が猛威をふるい、乳幼児を中心とした死亡率の高さは世界的な社会問題となっている。そのため日本人渡航者が途上国等の旅行先で感染して持ち帰る輸入腸管感染症の危険性が大きな問題となっている。また、魚介類や食肉の多くを上記の国々から輸入している我が国では、腸管感染菌に汚染された輸入食品による国内感染例も増加傾向にある。これらの輸入感染症の侵入を水際で防止あるいは国内での拡大を防ぐ防疫体制の整備は重要であるが、さらに一歩踏み込んで、国際的な研究協力によって現地での腸管感染症の制圧を進める積極的な努力が必要である。 目的 本研究で対象国としてインドネシアへは我が国からの渡航者も多く、我が国への主要な生鮮魚介輸出国でもある。さらに平成6年から7年にかけてインドネシア、特にバリ島を訪問した日本人旅行客でコレラが多発した(400人以上)が、インドネシアでのコレラ等の腸管感染症の現状は不明な点が多い。本研究ではインドネシア、特にバリ島におけるコレラを中心とした腸管感染症の発生頻度、原因菌の分布、感染源、感染経路を追求することを目的とし、その成果は我が国民の健康維持に貢献できるのみならず、ひいてはインドネシアの衛生状況改善に寄与できるものと考えられる。 方法 インドネシア、バリ島のウダヤナ大学医学部、微生物学教室の協力を得て平成8年8月〜9月にかけて現地調査を行い、現地住民の下痢患者あるいは日本人旅行者で下痢などの腸炎症状を訴えた者から採取した便の細菌学的検査を行うとともに、住民の生活環境や旅行者の滞在宿泊先、飲食店などから採取した生活用水や食物について同様の検査を行った。また、厚生省関西空港検疫所と共同して、平成8年4月から11月の期間のインドネシアからの日本人帰国者あるいは入国者で下痢等の急性胃腸炎症状を訴えた者を重点的に便検査を行い、下痢原因菌の検索を行った。 結果 平成8年8月〜9月の現地調査では、調査実施時期が乾期であったこともあり、住民の下痢患者が少なく、直接に検査を行うことは困難であった。日本人旅行客では我々がバリ島で接触した、17人中8人(約47%)が下痢症状を呈していた。その8人(抗生物質投与歴無し)から任意に提出された便について検査を行ったところ、Vibrio fluviorisが4人から、Vibrio minicusが1人から、Salmonella typhimuriumが1人から、pathogenic E.coliが2人から分離同定された。さらに、下痢症状の無い、無症状者(1人)の便からpathogenic E.coliが検出された。また生活用水(ホテル6カ所、現地住民の自宅6カ所、飲食店15カ所の水道水)では、調査したすべての箇所からVibrio fluvioris、Enterobacter spp.、腸球菌などが同様に検出され、糞便汚染の可能性と水質管理(殺菌など)が不十分な点が示された。さらに、ホテル3カ所、飲食店15カ所での食物(魚介類、野菜サラダ、フルーツ、ス-プ、麺類、飯類)でもVibrio fluvioris、Vibrio mimicus、Enterobacter spp.、Citrobacter spp.、腸球菌が検出されたことから、汚染水による糞便由来の汚染、調理上の不衛生(特に手指の細菌汚染)、不十分な加熱処理等が推測される。また厚生省関西空港検疫所と共同して、平成8年4月から11月の期間にインドネシアからの日本人帰国者あるいは入国者の下痢患者便検査では、Vibrio fluvioris、Vibrio mimicus、enteropathogenic E.coli等が検出されたがコレラ菌は検出されなかった。 考察 本年度の調査では実施時期が乾期であったため、現地での下痢患者に関する情報が得られなかったが、生活環境からの検索では、水道水などに糞便由来の細菌汚染が存在することが明らかとなった。また、現地あるいは関西空港検疫所での日本人旅行客下痢症患者の便検査で、コレラ菌は検出されなかったものの、類縁菌であるVibrio spp.が検出されたこと、水道水からも同じ菌群が検出されたことより、潜在的にコレラ菌が存在する可能性が否定できず、さらに、雨期などの下痢症多発時期において調査を行う必要がある。
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