研究課題
国際学術研究
本研究の目的は、南太平洋諸国の疾病概念、病因認識構造、伝統薬用植物資源並びにその臨床的効果を民族薬学的に調査研究することにある。本年は研究の初年度であることから、調査は南太平洋における教育・研究の中心的位置を占めるフィージ-諸島で予備的調査を主に行った。ただ、諸計画を進めるための確認する作業に手間取り、調査のための渡航は当初の計画より多く、述べ10回に及ばざるを得なかった。以下今年度の実績概要を述べる。1.フィージ-主島での聞き取り調査疾病概念、疾病の認識構造を調査するため、疾病、病態の呼称などの調査を行った。また同時に、その疾病の治療に用いられる伝統薬物の調査などを幾つもの集落を訪れ行った。これらの内、特に注目されるものにフィージ-主島の東部地区の集落での調査結果がある。例えば、ワイケテ部落では、薬物と部落住民が共存して集落を構成している。何の様に共存しているかであるが、この部落の人口は約400名で、部落内部はきれいに掃き清められており、所謂雑草は生えていない。この部落に植えられている植物といえば、食物としての根菜類、果樹および薬用としての植物、及び儀式用の植物以外は植えられていない。即ち、鑑賞用の植物などは植えられてなく、植物全てが生活に必要なものに限られている。従って、部落内部に植えられている薬用植物については、少年、少女を含め部落住民全員がその使用法、効果について熟知している。この部落での薬用植物の数は約50種以上に及ぶが、このように人間と薬が共存している例は世界的に見て極めて稀であり、人間にとって薬とは何かを考える上に貴重な資料を提供するものと思われる。また、必要でないものは植えないとする生活であるならば、その治療上の有効性も高いものと考えられる。従って、この部落に植えられている薬用植物の有効性の評価を、現代科学の立場で追求すれば高い確立で有用な結果が期待できる。この結果は、Journal of Ethonopharmacologyへ投稿すべく準備中である。2.ササンギル(Sasagilu)の化学成分と薬効の検索上記のワイケテ部落の薬用植物の中で、特に注目される植物、現地名ササンギルPseuderanthemum laxifolium(A.Gray)Hubbardを取り上げ、化学成分の探索並びにその生理作用について検討した。その結果2種のクマリン誘導体を分離しその構造を証明出来た。また、この2種について生理作用を検索した。初めに、ras遺伝子で癌化した細胞を用い、単離した2種の化合物の制癌作用を調べた結果その1種に弱いながらも効果が認められた。然しながら、本研究中ササンギルを乾燥し、日本に持ち帰る間に、変性していることが判明した。即ち、この植物の強い苦みは乾燥すると全く消失する。現地では生の葉を噛み砕き、その汁を患部に当てて用いるが、その場合の効果と乾燥したものを用いる時の効果には大きな差があると考えるべきである。インドネシヤや南太平洋諸国では、生の植物を薬用に用いることが多く、普通である。この使用法は中国やインドなどの伝統薬物の場合と大きく異なる。このことから、現地で生のままの植物を、その場で化学処理する必要に迫られる。かくして現地で最小限の処理を行うための器具を用意することとした。3.トトドゥロ(Totodro)の化学成分と薬効の検索現地名トトドゥロCentella asiatica Urbanはインドを含む他の東アジア諸国と同様、最も広範囲の病気に用いられる薬用植物である。然しながら、その化学成分と生理作用の関係は殆ど明らかにされていない。トトドゥロの研究を行うことは、東アジア全域における薬用植物を評価する上に有効であるとの観点で、化学成分の検索と薬効について検索した。その結果2種のトリテルペン配糖体を分離してその構造を確認した。この2種について現在その生理作用を検索しているが、最近得られた研究結果ではラット胎児大脳皮質培養神経細胞を用いた実験では、この2種の物質を添加すると哲の摂取が対照と比較して各々30%、15%促進することが明らかとなった。この結果は、この植物の伝承利用の効果を支持する。
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