研究課題
中国江蘇省には胃・食道がんの罹患率がともに高い地域(揚中市、潅安市)と低い地域(〓州市)とがあり、その両地域は食生活などライフスタイルが著しく異なる。本研究の目的は、両地域に焦点をあて胃・食道がんの同時比較疫学研究を実施し、両部位のがんに特異的、または共通した環境・宿主要因を解明することである。環境要因に関しては、高・低率地域の一般住民842名に対し生活習慣の調査をもとに解析を行い、低率地域では特にアリウム属野菜を中心に、生野菜、果物、トマト、豆類などがん予防効果を持つ食物の摂取頻度が高いことが判明した。更に胃がん患者-432名、食道がん患者263名に関して3地区ごとの症例・対照研究の解析を行い、熱い食物、塩辛い食物、残ったお粥、漬け物の頻回摂取で胃・食道がんのオッズ比の上昇を、ニンニク、ネギなどアリウム属野菜、生野菜、隠元豆、トマト、果物、お茶の頻回摂取でオッズ比の低下を認めた。CYP2E1のRasl遺伝子多型の解析では、低率地域でRaslのrare alleleの頻度が高い傾向が認められたが、胃・食道がんのリスクと有意な関連は認められなかった。GST M1とGST T1の解析では、null型の分布に地域差は認められなかったが、高率地域ではGST M1のnull型で胃がんのオッズ比上昇を認めた。HLA DRB1 alleleの遺伝子多型では、同じ漢民族の範囲内で異なった分布を呈した。更に、胃・食道がん患者では高率地域でDRB1^★13が、低率地域ではDRB1^★02が高頻度に認められた。抗Helicobacter pylori抗体陽性率とぺプシノゲンI、IIを用いた萎縮性胃炎の分布に地域差は認められなかった。胃・食道がんのリスクに関与している宿主要因がいくつか認められたが、住民全体に寄与する割合は低く、両地域における胃・食道がんの死亡率の差は環境要因が大きく関与している可能性が示唆され、特にアリウム属野菜を中心としたかん予防効果を持つ食物の摂取頻度が高い低率地域で明らかであった。
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