研究課題
感覚・知覚・注意といった知性の諸側面を比較認知科学的視点から検討した。対象となった種は、ヒト、チンパンジー、マカク、ハトである。チンパンジー11個体からなる犬山コミュニティーでは、個別の実験ブ-スで、さまざまな認知機能の研究をおこなった。主要なトピックとしては、図形文字および漢字の習得とそれによる命名、記憶の保持過程、視覚探索課題を利用した初期知覚の研究、視知覚における一体性の知覚と遮へいの効果、同時レバ-押し課題によるコミュニケーションの研究、視覚・聴覚の異種感覚間マッチング、弁別課題間の選択行動、コンピュータでモデルを示した線描、などである。こうした実験に加えて、対面場面でヒトが検査者として介して認知機能を測る試みがなされた。主要なトピックとしては、動作模倣、粘土造形などである。さらに、第3の実験パラダイムとして、日常暮らしている運動場に設けた屋外用実験ブ-スを利用した社会的場面での研究をおこなった。主要なトピックとしては、道具使用行動の生起と伝播過程にかんする研究、2つの採食場所をめぐる社会的かけひきの行動学的研究などである。さらに新しい試みとして、犬山コミュニティーのチンパンジーに「お金」を導入した。報酬として、お金を与える。そのお金を自動販売機にもっていくとりんごと交換可能になる、というシステムである。犬山コミュニティーに固有な文化的行動を作り上げることができた。人工授精で子どもを設ける試みが継続中であり、子どもの誕生を待って、文化の世代間伝播といった社会的知性の研究にも着手する予定である。こうした研究をイバー・イバーセン、ドラ・ビロといった外国人研究者と共同しておこなった。同様にマカクやを被験者とした研究も進めている。海外での研究としては、オランダのア-ネム・コロニーでのチンパンジーの研究、ギニアのボッソウでの野生チンパンジーの知性の研究をおこなった。そこで得られたビデオ資料の行動学的な解析を通じて、実験室的研究と相互に補完するような研究を展開している。
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