研究課題
平成8年度にはヨーロッパにおいて欧州金融・通貨圏あるいは「ドイツ・マルク圏」に関する調査と研究を行ったが、平成9年には東アジアにおける「円圏」の可能性について、東アジア3カ国・地域(シンガポール、マレーシア、香港)において現地調査を行った。調査は、現地銀行、邦銀現地支店および中央銀行(シンガポール金融通貨庁、香港金融管理局、バンク・ネガラ・マレーシア)、現地所在の日本製造業および総合商社に対するインタビュー調査であり、シンガポール、香港では、国際金融センターとしての活動に焦点を据え、マレーシアでは主として生産と物流を据えることを目指した。東アジアは完全に米ドル圏である。日本企業の現地子会社や支店も、金融通貨としてはいうまでもなく貿易通貨としてさえドルを主体に使用している。金融通貨としては、低金利の日本で借入れても外為市場でドルに変換し、ドル建てで使用している。これは現地がドルおよび現地通貨の2本建ての経済であるからである。また商社の場合、ドルと円とのヘッジに注意するかあるいは本社が為替リスクを負担するために現地では為替に無関心でドルを使用し続けるという2つの系列があるように思われる。97年7月のタイ・バ-ツに始まる東アジア通貨・金融危機によって米ドルに対して東アジア通貨は減価し、ドルとの価値的安定が崩壊したが、これが円の立場をどれだけ強めることになるのかは、現時点では明らかではない。2001年の金融ビッグバンを目途にした東京金融市場の自由化と並んで、貿易における円建ての促進や金融面での円の使用がまずバイラテラル・ベースで飛躍的に増加しないと「円圏」の可能性はない。そのためには、「ドイツ・マルク圏」にならうとすれば、為替相場の安定が不可欠であり、そのようなセッティングをわが国が行うことができるかどうかに、将来が掛かっている。
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