研究課題
国際学術研究
1990年代にマルクは西ヨーロッパの国際通貨となった。マルクは、取引手数料の低下によってドルを一部の取引分野で駆逐し、域内の為替安定を実現することができた。それは、東アジアにおける円圏の形成が可能かどうかという問題を提起する。本国際共同研究では、日本、ドイツ、シンガポールの研究者による合同研究によって、マルク圏の構造を明らかにし、それとの比較で東アジアの円圏の可能性について検討した。ハンブルク及び東京におけるシンポジウム、独英両国及び東南アジア三ヶ国(シンガポール、香港、マレーシア)における実態調査を実施した。結論は以下のとおりである。(1)ヨーロッパでは、1980年代末から国家レベルのEMSによるマクロ経済政策の収斂、マルクの為替標準通貨・介入通貨・準備通貨としての発展・定着による西欧諸通貨のマルクに対するヴォラティリティーの低下、また私的資本のレベルではクロスボーダーの証券投資を基軸にした直物・先物両方の外国為替取引におけるマルク使用の著しい増加が見られた。これによってマルク取引のコストが著しく低下し、直物市場ではドルを駆逐して、マルクが為替媒介通貨となった。(2)マルクの基軸通貨化や為替媒介通貨化は市場ではロンドンの存在、取引高では西欧諸通貨の間の機関投資家によるポートフォリオ投資活動が基軸となっており、「欧州金融・通貨圏」の中でマルクの地域的な国際通貨化が生じた。昔日のポンドや今世紀後半のドルのように中心国通貨としてマルクを評価できない。(3)通貨統合によって「欧州金融・通貨圏」は失われるので、ユーロの国際通貨としての発展の基盤はマルクと比べてさえ強くない。(4)東アジアは完全なドル圏であり、マルク圏との比較による限り、「円圏」の形成はいかなる点からも望み得ない。むしろ東京金融・資本市場の自由化による空洞化の回避、円と東アジア通貨との相場の安定の工夫がわが国の経済発展にとって重要である。
すべて その他
すべて 文献書誌 (22件)