研究分担者 |
SCHOCH B. ボン大学, 物理教室, 教授
外山 毅 高エネルギー加速器研究機構, 助手 (30207641)
佐藤 晧 高エネルギー加速器研究機構, 教授 (80100816)
REICHERT E. マインツ大学, 物理教室, 教授
HUSMANN D. ボン大学, 物理教室, 教授
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研究概要 |
Bonn大学,Mainz大学にはそれぞれELSA(0.5〜3.5GeV),MAMI(0.3〜0.9GeV)と愛称される電子線加速器が稼動中であるがこの加速器において偏極電子ビームを実用化しハドロン偏極現象を追求すべく共同研究を推進した。得られた主たる成果としてつぎの3項目を選び報告する。 (1)Bonn大学における偏極電子ビーム源の作製と実用化 Bonn大学に元々あった偏極電子銃は超高真空の点で実用に耐えられないことが判明し,新たに名古屋大学が協力して120keV電子銃を作製した。それでもなお遭遇した表面電荷制限現象によるピーク電流不足問題は,名古屋大学が独自に開発した超格子構造フォトカソードの利点を生かすことにより350mAの空間電荷制限値を得て解決された。これにともない,量子効率の低下をレーザー光量の増強で補うことが可能となり,50時間以上の長いカソード寿命が確保できて偏極電子ビームの実用化を達成できた。 (2)ELSA円形加速器におけるスピン減偏極共鳴現象の克服 ELSAには1.0〜3.5GeVの間に11ケの減偏極共鳴があることが予想された。これを防ぐ方法として"スピンを反転させる遅い通過法"と"スピンを維持する速い通過法"の両方を試験した。前者は1.32GeV共鳴には有効であったが,1.76GeV共鳴ではスピン反転中に放出される放射光によりスピンの位相が拡散し偏極度が低下する現象が初めて実験的に観測され,これ以上のエネルギー領域では使えないことが判明した。後者は1.32GeV,1.50GeV共鳴に対して有効であった。すなわち暫定的な装置でも2.0GeVまでは大きな減偏極なしに加速できることが確認され,このエネルギーまでは直ちに実験可能となった。 (3)Mainz大学におけるピコ秒偏極電子ビーム生成及び超格子構造半導体フォトカソードの偏極機構の解明 "超格子半導体フォトカソードの偏極度を決めている要因は何か"は今まで謎であったが,Mainz大学のピコ秒レーザー光で励起され真空中に取り出したビームの偏極度と強度プロファイルを1ピコ秒分解能の観察した結果,「重い正孔と軽い正孔がバンド混合を起こす度合いが偏極度を決定している」との証拠を掴むデータを得ることができた。
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