研究課題
1.なぜリラクサ-か鉛を含むペロブスカイト酸化物のBサイトを、価数の異なる2種類の原子で置き換えた構造Pb(B'B")03をもつ誘電体は、特異な誘電的性質を示す。誘電率は非常に大きくしかもブロードで、低周波において特徴的な分散を示す。この系は特徴的な緩和過程に名をとって、リラクサ-と呼ばれている。小型積層コンデンサ、圧電素子などへの応用に熱い目が注がれている。B'B"の組み合わせによって種類は沢山あるが、代表的なものはPMNと呼ばれているPb(Mg1/3Nb2/3)03である。PMNの場合には、数万に達する誘電率が室温付近で最大となるが、電気分極の長距離的な発達は見られず、10Kまで平均の結晶構造は立方晶のまま、光学的にも等方的である。このような性質はセラミックスのみならず単結晶でも発現する。この系は価数、イオン半径の異なる2種類の原子が同じサイトに入ることによるフラストレーション系であり、スピングラスに見られる履歴現象、長時間緩和現象などが発生する。種々の相互作用が関与する1種の"複雑系"と見ることもできる。2.結晶構造の特徴PMNセラミックスを用いた中性子線回折とそのRietveld解析(RIETAN-94)を行った。実験は原子力研究所JRR3号炉1-3施設を用いた。解析の結果は次のとおり。(1)Pb原子はペロブスカイト構造の理想的なAサイトから大きくずれ球面上に分布し、一方O原子は{100}面からシフトしてリング上に分布する不規則構造をとる。(2)低温になるにつれて、この立方晶不規則構造の中に、{111}方向に原子がシフトした極性菱面体相が発達する。しかし10Kにおいても菱面体相は全体の26%を占めるに過ぎない。この事実は、PMN焼結体からの光第2高調波発生からも確認された。この場合には、セラミックス特有の粒界による散乱で第2高調波は非干渉的となり、強度は第2高調波を発生する極性領域の体積に比例する。電子線回折では(1/2.1/2,1/2)の超格子反射が観測された。この超格子反射の暗視野像をみると、約3nmのクラスターが観察され、これはMgとNb原子の1:1秩序が起因であると言われている。この超格子反射は温度変化を持たない。3.電場印加効果PMNに電場を印加することによって、結晶全体を強誘電相にすることができる。しかしこの現象は、試料の履歴に強く依存する。電場を印加しないで試料を冷却する(ZFC)場合、低温で電場を印加しそのまま温度をあげる(FH/ZFC)場合、電場を加えて温度を下降させる(FC)場合、電場を0にし温度を上昇させる(ZFH/FC)場合では複屈折の挙動は著しく変化する。これはスピングラスに見られる現象と類似している。さらに温度一定にして、電場を印加して複屈折の時間変化をみる。低温では非常に長い時間をかけて複屈折が上昇していく過程が見られる。
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