研究概要 |
本研究ではマクロ系やメソスコピック系に対する量子論的理解をその最終目的としているが,その中心的課題はmicro-macro transitionの実現とその物理的,数学的基礎付けにあり,量子力学的観測問題及び関連する諸問題に取り組んできた.具体的な成果としては, 1.量子力学的観測過程に対する可解な力学的模型(modified Coleman-Hepp模型)を提案し,その弱結合・マクロ極限で出現する確率過程(Wiener過程)を詳しく調べた.特に,Wiener過程をもたらす演算子が測定器系の自由Hamiltonian(Heisenberg演算子)で与えられること,またその起源は,純粋に系の量子力学的性格に求められことが明確になってきた.2.量子系の時間発展に関して攻めて整理し直し,その振る舞いと複素エネルギー平面での解析性について一般的な関係を導出した.さらに,簡単な量子系に対しては波束の時間発展を直接追跡し,またより現実的な水素原子の準位間遷移に関しては厳密解を導出した.特に後者では,時間発展初期の特徴的時間スケールを評価するとともに,生存確率に生き残る振動項の存在を指摘した.3.量子ゼノン効果の検証実験として中性子スピンを利用する実験を提案し,その実現に向けての実験的・理論的検討を行った.4.Nelson の量子力学を用いることによって,トンネル領域を通過する量子力学的粒子の数値シミュレーションを実行するとともに,量子系にもたらされる散逸の効果を考慮した,より現実的なトンネル時間の評価を試みた.5.量子力学的観測過程とコヒーレンス消失機構に関して,現時点での総まとめを行い,“Decoherence and Quantum Measurements,"by M.Namiki,S.Pascazio and H.Nakazato(World Sci.Pub.,Singapore,1998)として出版した.
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