研究概要 |
低エネルギー多価重イオン衝突による固体表面からの二次イオン放出の収率測定を行い、固体中の電子励起効果を調べた。入射イオンビームとして、1MeVXe^<q+>(q=8-44)を用い、金属・半導体などの導電性物質についてC,Al,Ni,Cu,Ag,Si、酸化物高温超伝導体についてLa_<1.85>Sr_<0.15>CuO_4、絶縁物についてはSiO_2を標的として使用した。実験はカンザス州立大学物理学科のCRYEBIS電子衝撃型イオン源からの、マイクロバンチング重イオンビームを用いて行った。二次イオンの質量スペクトルは飛行時間測定法(TOF)を用いて測定した。固体ターゲットを用いる場合、固体から放出される二次電子をTOFのスタート信号として用いるのは非常に困難であり、マイクロバンチングビームは我々の実験には欠かせない。なお本研究が始まった動機は、重イオン照射による高温超伝導体の改質の基礎過程を調べるということである。 どの種類の標的においても入射イオンの価数qが増すに従い、二次イオンの収率が顕著に増大する。このことは電子励起効果の重要性を示している。炭素薄膜の実験結果ではq=26において二次イオン収率が急激に増大する。金属・半導体標的(Al,Ni,Cu,Ag,Si)においてはq=26で二次イオン収率の増大率が価数の低いところと比べて、より大きくなり、さらにq=35で増大率がいっそう顕著になる。入射イオンのある特定の価数でこのような強い二次イオン収率の増大が起きるのは、その価数において入射多価イオンの内殻に新しい空孔ができるためであると考えられる。
|