研究概要 |
本研究は色素細胞の発生機構の系統解析を行うことを目的としている。ここでは脊椎動物に進化的に近い原索動物のマボヤから、脊椎動物の色素細胞分化に関与する遺伝子のホモログをクローニングし、その発現を発生段階を追って解析し、細胞種特異的な発現を保証する分子メカニズムを明らかにすることを目的とした。 今年度の研究成果は以下の通りである。 1.クローニングに成功したマボヤチロシアーゼ遺伝子の発現をin situハイブリダイゼイションによって解析した(Sato et al.)。またその関連タンパク質(TRP)の遺伝子のクローニングにも成功し、この遺伝子が非常に特徴的な発現パターンをとることを見いだした(Sato et al.,投稿準備中)。 2.さらにこれら遺伝子の上流域とlacZレポーター遺伝子を繋いだミニ遺伝子を作製し、それらをマボヤ受精卵にマイクロインジェクションしてそれぞれの転写調節領域の活性を詳細に解析した。チロシナーゼ遺伝子では色素細胞特異時な発現に必要な40塩基対程度の領域を見つけることができたが、この配列は脊椎動物の当該遺伝子上流域にはまだ見つかっていない。TRP遺伝子については当該の領域をようやく数百塩基対までせばめることができた。ちなみにマボヤチロシナーゼとTRP遺伝子の調節領域は相同性が高くなく、このような機能的な解析を通して、着目すべきシス領域が明らかになるものと期待している。マボヤにおいてもこれら遺伝子は細胞種特異的に発現しており、これを保証するメカニズムは脊椎動物のそれらと相同のはずである。トランスジェニック動物を用いた解析の必要性がますます高くなった。 3.マボヤのPax-3,7をクローニングし、それをマボヤにおいて異所的に発現させることにより、チロシナーゼの発現を誘導しうることを発見した。Pax-3,7がチロシナーゼ遺伝子ファミリーの上流で機能している可能性が高くなった(Wada et al.)。
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