研究課題
国際学術研究
タンパク質合成(翻訳)の終結機構の研究は、2つの点で重要である。第1に、遺伝暗号の解読機構は1970年前にその基本機構が完全に解明されたと理解されているが、その認識は誤りである。翻訳終結については、(1)終止コドンの認識、(2)23S rRNAのリボザイムによるペプチド鎖の切断、(3)リボソーム複合体の最終解離、等の基本的な問題が分子レベルで未解決である。第2に、終止コドンは翻訳の停止信号とならない事例が生物種を問わず数多く発見されている。フレームシフトやアミノ酸の読み替え等、暗号解読の普遍則から外れた翻訳現象が、リコーディング機構と命名されて、翻訳研究のフロンティアとなっている。終止コドンで翻訳を、「止めるべきが、止めざるべきが」、それが問題となるようになってきたのである。さらに、翻訳終結の効率を調節することによる遺伝子発現の制御システムの存在も明かになってきた。このような理由がら、「終止コドンの認識→プペチド鎖切断→リポソーム複合体の解離」に至る翻訳終結の基本的な分子機構に関する研究を、大腸菌および酵母のモデル系で優先的に実施する必要性から、本研究を行った。終止コドン認識に関する研究のブレークスルーは、翻訳調節に働く一群のタンパク質が、核酸であるtRNAの構造とそっくり、という「分子擬態」の発見である。我々は、終結に働く解離因子がアンチコドンをも擬態し終止コドンを認識すると考え、分子擬態(molecular mimicry)仮説を提出した。タンパク質とRNAの分子擬態は、生物学にとって新しい概念であり、生命がRNAワールドがらタンパク質(DNA)ワールドへと進化してきたことを考えれば、生命の根幹に係わる基本的な原理のひとつと考えられる。この研究は、基礎生物学に役立つのみならず、バイオテクノロジーに新たな技術を生み出すチャレンジともいえる。現在、分子擬態の基盤原理の解明とともに、タンパク質による遺伝暗号の解読という新しい領域を確立する方向へ研究を進めている。
すべて その他
すべて 文献書誌 (56件)