研究概要 |
背景:以前我々は、TRβがin vitroでリン酸化を受けることを報告した(Sugawara A, et al. J Biol Chem. 1994;269:433-437)が、TRβのリン酸化酵素の同定およびリン酸化の機能的意義の解明は未だ十分ではない。CKIIは生体内に普遍的に存在するリン酸化酵素であるが、近年種々のホルモン核受容体がCKIIによるリン酸化を受けて機能修飾されることが報告されている。目的:TRβがCKIIによるリン酸化を受けるかどうかを明らかにする。リン酸化を受ける場合には、リン酸化部位の同定およびリン酸化による機能解明も行う。方法と結果:大腸菌にて作成したTRβタンパクを、精製CKIIおよびγ^<32>P-ATPとともにインキュベーションした後にSDS-PAGEを行ったところ、TRβがリン酸化を受けることが明らかとなった。TRβ内部には4個のCKIIリン酸化コンセンサス配列(第7番と第210番のトレオニンおよび第36番と第94番のセリン)が存在しているが、4個中3個のアミノ酸残基をアラニンに置換した変異株を作成した後にグルタチオン-S-トランフフェラーゼ(GST)との融合タンパクを作成した。得られた融合タンパクを用いてCKIIによるin vitroリン酸化を行ったところ、第210番のトレオニンのみリン酸化を受けることが認められた。そこで、TRβ発現プラスミドの第210番のトレオニンの変異株(Mut)を作成した後にリポータープラスミドと共にCV-1細胞にトランスフェクションしたところ、T_3による転写活性はMutと野生型TRβ(WT)の間で差がなかったものの、基礎転写レベルはWTに比して有意な増加が認められた(42.2% vs 27.6%,p<0.01)。第210番のトレオニンは基礎転写レベルを抑制するco-repressorであるN-CoRとの結合部位内に存在していることから、in vitro転写翻訳系により作成したTRβとN-CoRIを用いてゲルシフトを施行したところ、MutではWTに比してN-CoRIとの結合が減弱していることが認められ、それがトランスフェクションでの基礎転写レベルの増加に関与していると考えられた。結論:CKIIによるTRβのリン酸化はN-CoRとの結合および基礎転写レベルに関与しているものと推定された。
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