研究概要 |
平成8年9月にカザフ国セミパラチンスク市カザフスタン放射線医学生態学研究所を訪れ、相手側研究者と放射線被曝の実態と、白血病及び甲状腺癌を含む悪性腫瘍発生の実態につき、情報を収集した。まず1965年〜1980年のセミパラチンスク州全体の悪性腫瘍死亡統計によると、(1)食道癌、(2)胃癌、(3)肝癌、大腸癌、(4)肺癌、(5)子宮癌、(6)乳癌、(7)白血病の順で死亡率が高く、甲状腺癌による死亡は少ない。核実験場の東側にあたる汚染地区は、最高度汚染地区(1945年〜1986年の被曝蓄積線量が100〜500cSv)、高度汚染地区(同35〜100cSc)、中等度汚染地区(7〜35cSv)、低汚染地区(0〜7cSv)にわけられる。このうち放射線被爆影響調査の対照となったのは、高度汚染地区集団としてAbeisky区(Sarjal村、Karul村、Kainar村を含む)とBeskaragaisky区(Kanonerka村、Mostik村、Tcheremushki村を含む)の住民6,700人であり、低汚染地区集団としてKakpektinski区、Aksuatski区、Urdjarski区、Makanchinski区、Chubartanski区の住民12,000人であった。低汚染地区及び高度汚染地区における白血病による死亡率は、それぞれ人口10万人あたり、1955〜1960年2.2人と5.0人、1963〜1976年1.56と4.3人、1979年〜1986年2.0人と4.8人であり、高度汚染地区での死亡率が高い傾向を認めている。また年を追ってその推移をみると、1962年〜1965年頃と1981年〜1987年頃に死亡率の増加をみており、同様の傾向は他の悪性腫瘍についてもみられている。高度汚染地区集団の住民に発生した白血病死亡実数は1964年1人、65年1人、66年1人、67年2人、71年1人、72年2人、73年1人、74年1人、76年2人、77年3人、79年1人、80年1人、81年3人、84〜87年4人、88年〜94年6人である。これらの死亡症例のカルテ及び血液標本の入手が可能となるように交渉を続けている。 次にセミパラチンスク市中央病院及びセミパラチンスク小児病院を訪問し、最近の1年間の白血病症例のカルテをレビューし、血液標本の形態的分類を行った。また分子生物学的解析用のサンプルを収集した。これらのサンプルについてはp53,N-ras等の癌抑制遺伝子や癌遺伝子についての分子生物学的解析を予定している。 甲状腺癌については、セミパラチンスク市中央病院の外科及び内分泌科を訪れ、外科手術例の増加が見られるとの情報は得たが、詳しい資料の入手は出来なかった。今後も引き続き交渉を続けていく予定である。
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