研究概要 |
1.肺胞上皮細胞増殖因子前投与による肺障害抑制-申請者らの研究で、FGFファミリー特にケラチノサイト増殖因子(KGF)が肺胞II型上皮細胞を特異的に増殖させ、かつ肺表面活性物質アポ蛋白遺伝子SP-A、SP-B mRNAsの発現を著明に増加させることが証明された(Am J Physiol,1995)ことから、このKGFを2回投与(前投与および後投与)して、ブレオマイシン肺線維症および塩酸肺障害を軽減できないかラット肺で検索した。KGFを2日前投与し、ブレオマイシン投与24時間後に投与すれば、これらの肺障害が抑制されることを、肺生理学的、組織学的検索で証明できた。即ちKGF2回投与により呼吸不全動物の体重減少、肺湿重量増加、肺容量(Total lung capacity)減少などが抑制でき、かつI型およびIII型コラーゲンの免疫組織学的増加、in situ hybridization法によるそのmRNAの過剰発現などが抑制され、正常肺に近い構築を示した。塩酸肺障害(誤燕性肺炎)では、HCl(0.1N)をラットの左肺のみに注入した。死亡率は約30%であったが、2〜3日前にKGFを前投与すると、すべてのラットが生存した。KGFは、肺胞上皮細胞を増殖させ、塩酸障害による肺サーファクタント・アポ蛋白質SP-BとSP-C mRNAの減少を抑制し、SP-A mRNAを増加させて肺障害を軽減した。しかし、KGFを後投与しても障害抑制効果は少なかった。2.肺胞上皮細胞増殖因子と人工サーファクタント併用による後投与による肺障害抑制効果-人工サーファクタントとの併用効果を試みたが、急性期には肺水腫が著しく投与物質が肺胞に達しないと思われ、効果があまり見られなかった。現在経時的に投与日を変え効果のある時期を検索中である。さらに、プロテアーゼ阻害薬などの併用効果も検索中である。3.培養肺胞II型上皮細胞気管内投与による肺障害抑制効果-肺障害発生後にKGFを投与しても効果が少なかったことから、KGF刺激した肺胞II型上皮細胞を経気管的に投与して抑制効果を検索しているが、初期には肺水腫などのため効果が一定せず現在より効果的方法を検討中である。4.KGFによる肺障害抑制の機序解明-KGFによる転写因子(CEBP/α、β、γ、)、肝細胞増殖因子(HGF)、transforming growth factor(TGF)など細胞増殖および線維化に関与すると思われる因子の遺伝子発現動態の検索を進めている。ブレオマイシン肺障害やエンドトキシン肺障害で転写因子CEBP-α,β及びδの発現がそれぞれ独立して観察されたため、KGF投与によるこれらの因子の発現動態の変化を検索している。さらに、HGFやTGF-βの発現が線維化の強いところに同じ程度に観察され、これらのバランスによって線維化が起こる可能性が示唆されている。
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