研究概要 |
哺乳動物の中枢神経系では、細胞外グルタメイト(Glu)シグナルは、細胞膜上のGluレセプターを介して細胞内へシグナリングされる。Gluレセプターは、細胞内シグナル変換メカニズムの相違に基づいて、イオノトロピック型とメタボトロピック型の二種類のサブタイプに分類される。本共同研究では、両サブタイプの生化学および薬理学的解析を通じて、Gluシグナリング関与の推察される各種神経精神疾患の治療および診断に有効な医薬品の発見を目指す。その目的で、イオノトロピック型レセプターのリガンド結合を指標にしたレセプターバインディングアッセイを行ったところ、N-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)感受性レセプター複合体上のグリシン(Gly)認識ドメインに対して、5,7-dichloroquinoxaline-2,3-dione(DCQX)が選択性の高いアンタゴニスト活性を発揮することが判明した。さらに、NMDAレセプター複合体上の他のアゴニスト認識ドメインや、あるいはNMDA非感受性レセプターに対する親和力がほとんど認められないことから、同化合物は極めてGly認識ドメインに対する特異性が高いことが推察される。これに対して、NMDA非感受性レセプターへの各リガンド結合はDCQXでは全く影響されなかった。一方、幼若ラット大脳から調製したシナプトニューロゾーム画分を用いると、Glu添加に伴うイノシトールリン脂質の加水分解促進が観察された。このGluによる加水分解は、カドミウムイオン添加によって著明に阻害されたが、カルバコールによる加水分解はカドミウムイオンでは影響されなかった。したがって、幼若ラット大脳ではリン脂質加水分解を調節するメタボトロピック型Gluレセプターサブタイプの機能発現が示唆される。今後、両サブタイプに特異性の高い化合物の発見を通じて、最終的には臨床的有用性の高い医薬品に関する創薬戦略を展開する予定である。
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