研究課題
1.中国では、上海市の奉賢県と嘉定区で、6つの郷鎮企業、2つの県・区人民政府、4つの鎮人民政府のヒアリング調査を実施した。それを通して明らかになったことは、郷鎮企業の発展に伴って、地域の労働力が農業から遊離し、工業に吸収されていく過程が加速的に進行していること、同時に、農業や建設・紡績等の労働集約的な産業部門に、中国国内の低工業化地域からの住民が大量に流入していること、その形態は、以前のような単身出稼ぎ型ではなく、家族ぐるみの移住が特徴となっていること、そして、中国の戸籍制度の下では、これらの住民に十分な市民権が保障されていないこと、などである。したがって、郷鎮内部に居住する住民間に新たな階層構造が形成されつつあり、地域の社会関係に変化が生じていることが明らかになったが、それが地域社会にどのような影響をもたらすのかの分析は、今後の課題となっている。2.日本では、海外進出を展開している中核企業の基本戦略と地域企業との関係、および、地域の小零細企業の若手経営者による協同化の取り組みの2つを事例的に研究した。この中で、特に重視した点は、企業の経済的行為を支える地域の社会関係のあり様である。坂城町の調査では、企業間での「情報交換」「仕事の融通」「設備の賃借」などの協力関係が明らかとなったが、これを支えているものが、企業経営者のインフォーマルな社会関係、地域へのアイデンティティ、仲間意識、彼らが共有するモ-レス(習律・道徳律)などである。地域企業の分析を、市場関係における競争力のレベルのみならず地域の社会関係とイデオロギーにまで掘り下げて行なっていくことが必要である。
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