研究概要 |
遺伝子の本体である核酸に紫外線や環境中の有害物質が作用すると核酸の塩基部が修飾を受けた誘導体が生じる.本研究の目的は,紫外線により生じるシクロブタン型チミンダイマーおよび(6-4)光産物と抗光損傷DNAモノクローナル抗体との特異的認識を原子レベルで解析し,得られた知見を基にして,紫外線損傷DNAを修復する機能を有する触媒抗体を設計するための基礎的データを得ることである.これまで得られた研究成果について以下に述べる. 一連の紫外線損傷DNA特異的抗体の抗原となるシクロブタン型チミンダイマー,(6-4)光産物およびDewar isomerを含むDNA断片の大量合成を行った.次に,これらと特異抗体の抗原結合領域(Fab)との結合活性を調べた.また,可変領域(Fv)遺伝子をクローニングし,一本鎖抗体(scFv)遺伝子を構築した.scFv蛋白質の大量発現を行い,得られたscFvと核酸誘導体との結合反応速度定数を求めた.さらに,CDRの位置特異的変異およびランダム変異により,核酸誘導体との結合部位を解析した.一方で,原子レベルでの解析のため,Fabの大量調製を行い,損傷DNA断片との結晶化を行った.特に,(6-4)光産物認識抗体のFab単体およびFabと(6-4)光産物との複合体の三次元構造をX線構造解析により明らかにした.また,NMRにより抗(6-4)光産物抗体と抗シクロブタン型チミンダイマー抗体の安定同位体標識したFabと抗原DNA誘導体との結合の動的解析を行った.構造から得られた知見を基に抗原結合部位にランダム変異を導入したscFvを構築し,生物活性を見出した.
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