研究概要 |
本研究の目的はサイクリックADPリボース(cADPR)をセカンドメッセンジャーとする細胞内情報伝達系の分子機構の全容を解明するとともに、この新しい情報伝達系と既知の情報伝達系の相互関係を明かにして、細胞内情報伝達について新しい展望を拓くことである。研究は順調に進行し、以下の成果を得、裏面「研究発表」に示すように学術誌に発表済みもしくは印刷中である。 1.cADPR合成・分解酵素(CD38)の基質であるcADPR、調節物質であるATPの結合部位を明かにした。 2.CD38遺伝子を単離しその構造・染色体座位を決定した。また、糖尿病患者で140番目のアルギニンがトリプトファンに変異した遺伝子変異を見出した。 3.糖尿病患者に抗CD38抗体が存在し、抗CD38抗体がCD38の酵素活性を阻害してブドウ糖刺激による細胞内cADPRの増加が起きないことによりインスリン分泌が障害されることを明らかにした。 4.FKBP12.6がcADPR結合蛋白質であることを明らかにし、遺伝子を分離し、その構造と染色体座位を明らかにした。またこの遺伝子の発現に必須の遺伝子領域を同定した。またさらに、心不全状態の心筋ではFKBP12.6とtype2リアノジン型Ca^<2+>放出チャンネル(RyR)の結合比に異常が生じていることを明らかにした。 5.6.CaM kinase II、A kinaseによってcADPRによるミクロソームからのCa^<2+>放出が増強することを見出した。 6.相同組み換えによりCD38遺伝子を欠失したマウスを作製し。このマウスの膵ランゲルハンス島ではブドウ糖刺激によるcADPR生成が認められず、細胞内Ca^<2+>動員、インスリン分泌が低下していることを明らかにした。また、これらの異常はCD38をノックアウトマウスのインスリン産生細胞に導入することにより正常化することも明らかにした。 7.CD38ノックアウトマウスを用いた実験から、膵臓外分泌細胞のアセチルコリン刺激によるCa^<2+>オシレーンヨンにcADPR系が必須であることを明らかにした。 8.連鎖球菌のNAD分解酵素にcADPR合成・分解活性があることを明らかにし、その一次構造を明らかにした。さらに連鎖球菌cADPR合成・分解酵素の活性に必須のアミノ酸残基を同定した。その結果、哺乳動物から細菌に至るまでcADPR合成活性に必須のグルタミン酸とcADPR分解活性に必須のリジンが保存されていることを明らかにした。 9.膵ランゲルハンス島インスリン産生β細胞で発現しているRyRがtype2,type3であることを明らかにし、この両者をβ細胞で欠失するノックアウトマウスを作製した。
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