本研究は法律エキスパートシステムの実現には、条文の欠けている知識を補完していく推論機構が必要であることから出発している。不完全知識を補完する推論には、アブダクション、帰納、仮説推論、状況推論および類推等があるが、我々は法的発現機構としてのアブダクションおよび仮説推論に注目した。すなわち、アダクティブ論理プログラミングに基づく仮説選択機構の、国際統一売買法の適用に関する基礎的研究を行った。アダクティブ論理プログラミングは論理プログラミングのアブダクションへの拡張で、仮説推論な自然な拡張になっている。この言語を用いれば、一般にあるゴールを説明する複数の仮説を生成することができる。 本研究では、複数の仮説を同時に扱い、かつ候補集合から適切な仮説を選択するような仮説選択機構を構築した。まず事件に関する事実、裁判官の判断等が含まれる判例データベースの定式化を与えた。ついで、支持および不支持という両極の判例を考慮するような仮説の適合度評価法を提案した。次に国際統一売買法第2部への適用を目的とする実験システムを作成した。更に法学者が与えた説例と判例を用いて、構築したシステムの実験および考察を行い、本研究で提案した仮説選択機構の国際統一売買法への適用可能性を示した。今後の課題として、法的オントロジーに基づいて、効果的かつ厳密に類似度等を再定義すること、および事例ベース推論とルールベース推論の融合という見地から、本研究の適合度の改善を図ることがあげられる。
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