報告者に与えられた課題は、国連売買条約(以下ではCISGと略称)の知識構造を分析し、それに基づいて同条約に関する知識ベースを構築することである。その作業前提として、平成7年度に引き続き、諸外国で下されたCISGに関する判決例・仲裁判断例の収集・分析作業を行っている。 昨年度の研究において摘出したCISGの解釈についての一定の傾向-「重大な契約違反」への該当性や通知義務を厳格に解する傾向、適用される利率の多様性、CISGの普遍的適用など-は、今年度においても確認することができた。また、CISGを重要視する各国の積極姿勢についても同様である。さらに、今年度は、契約の成立、履行期前の契約違反、免責等に関して、注目すべき判決例・仲裁判断例が現れた。その結果、CISGの現実の適用過程の全容がかなり明らかになってきた。その成果の一端は、「1980年国連国際物品売買条約-解釈上の諸傾向を中心として-」日本国際経済法学会年報5号(平成8年10月)および「国連売買条約の展開-その後の判決例-」研究成果報告書(平成9年2月)として発表した。 今後は、CISGに関する判決例等の収集・分析作業を継続するとともに、その分析結果をふまえての設例作成作業を行いたい。
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