研究概要 |
1 建国以来進められてきた中央集権=指令型の計画経済システムに対して,市場メカニズムが着実な浸透を見せる一方で,それに伴い,弛緩しつつあるにせよ、「党=国家」体制の権力メカニズムがなお厳然と存在している事態を両者間の共生/両棲関係として把捉した。すなわち、国家と杜会の両者間の領域それ自体が,暖味にして各個別ケース毎に不確定であり,両者間の相互浸透および「新たな装い」の各種存在態(社会意識,組織・集団,階層等)の持つ両義的性格が指摘されるからである。 2 行政の担い手が,もはや各職務分担領域での利害関係の調整者になっている。その背景には、村内部での多様な利害関係の形成と、それと親和的な多様な意織の表出があり、私的経営の進展に伴う意織の変化という点では、その担い手における生活実践の中での伝統の復活,また家庭・地域生活にみられる家風や民衆文化等の重要性が改めて確認できる。 3 出稼ぎ現象は,しばしば「盲目的な流動」などと形容されるにも関わらず、いずれの地域においても所与の条件に対応してきわめて合理的な農家行動によって発生しており、「発展途上地域における貧困層の没落→出稼ぎの流出」というような性格のものではなかった。また,中国内の発展途上地域においては地域内の優位性を有した階層からの出稼ぎがみられ、経済発展地域においては地域内の下降農家層からの流出が観察されるなど一般的に想定される粂件のみでは説明し得ない背景が存在している。 4 旺盛な転職意識を持つ中国の諸個人は、世代内での職業移動が頻繁に行われつつあるとはいえ、こうした流動性をモニ夕-、チェックする機関としての地方政府は依然大きな権限をもっている。しかも、従来の「高学歴」で「人格者」をリーダーの条件と考える精神構造が根強く見られるため、個体戸や私営企業家などの金銭的な成功者が、国家秩序や社会秩序の主導的な役割を果たすものとは予想しにくい。
|