本研究課題である「中国経済における物流システムの形成と経済の市場化との関係」を進めた。既存の文献を検討した上で、調査の枠組みを明確すると同時に、中国進出企業データベースを構築した。「長江経済地帯」を中心とした地域経済圏の形成にかかわる物流問題に関する文献と資料を整理し、論文およびその他の形態でその研究成果を発表した。そのなかで、物流という視点からみた「長江経済地帯」開発の現状と展望を明らかにした。これをもとに日本の物流企業を中心にその本社の中国事業担当者を対象に訪問面接調査を実施し、訪問調査の資料および記録を整理した。調査対象企業には、日本通運、日新や日新運輸など物流企業と、中国国内の物流事業を展開している伊藤忠商事や丸紅などの商社も調査した。調査から得た主な発見は、総合商社が「現地市場対応型」の対中投資を行った企業のための物流ネットワークを形成し、それが機能しはじめていること、地域経済圏内のトラック輸送のための道路整備が急速に進み、道路インフラはかなり改善されているが、地域経済圏の間での道路にはまだ問題が多いことなどである。調査の成果に基いて内陸部への投資に関わる問題や長江流域のコンテナ輸送の問題などについて、神戸市「上海・長江交易促進委員会や日本コンテナ協会などのセミナーで報告した。また、中国の物流関連の地域別統計資料をデータベース化し、その分析を行った。分析結果の一部は発表したが、その詳細な結果を論文の形態で発表する予定である。これまでの分析結果からみると、長江デルタ地域の相互作用が強く、広域経済圏が形成しつつある。中国の中部地域の成長核都市は武漢であり、西部地域の成長核都市は重慶と成都であることを地域間の貨物輸送データによっても確認された。さらに、長江水運の障害が多く、中期的にはあまり期待ができないことも明らかになった。
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